時をかけるN
□ 目眩く追憶 5/9
「大きくなったわね」
アテナは慈しむような瞳で眺めながら、シルバーの頭を優しく撫でた。
母親が居たら、こういうものだろうかと思うように。
「…………」
シルバーは、その手を――
パシッ
と、払いのけた。
「オレは、“ロケット団”が大嫌いだ」
アテナは意表をつかれたように目を見開き、拒まれた手を一瞬強張らせた。
「だから、潰しにきただけだ」
決意の色。
決別の色。
強固な意思を持った赤の双眸がアテナを貫いた。
「……そんな強い意志をぶつけられちゃ仕方ないわね。“ロケット団幹部”として“侵入者”を迎え撃つわ」
アテナの両眼もまた、鋭気を含んでシルバーを真っ直ぐ見据えていた。
互いの視線がぶつかったのが合図だった。
「覚悟なさい」
「臨むところだ」
シルバーは腹を据えてモンスターボールを握り締めた。
そして、互いの矜持をかけた戦いの幕は切って落とされた。
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