時をかけるN
□ どこまでも走る 3/7
「アポロには、そんな莫大な力を掌握できるほどの力はないわ……サカキさまなら分からないかもしれないけど」
「そんな……」
「もう気付いてるはずよ……。今のあたくしたちは、ひどく空虚で滑稽な存在に堕ちているわ」
アテナは、扉の向こうへ呼びかけるように言葉をかけた。
「ラジオ塔占領のときにサカキさまが呼びかけにお応えしなかったのは、きっと……あたくしたちの力が足りなかったとかそういうのじゃないわ。サカキさま自身が……自分はまだ戻れないとお考えになったのよ。あの人は、そういう人……」
「アテナさん……」
皆の想いを知ってなお、何もすることができない無力さ。
どうすることもできない運命を、アテナは誰よりも痛感していた。
「アポロも頭ではもう分かってるかもしれないわ」
「でももう戻れねーからな」
ラムダが自分たちにとって重い言葉を挟んだ。
もう戻れない――――。
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