すとろべりー
不器用なアンビバレンス(マツ→コト)
「対戦ありがとうございました!」
律儀にお礼を言って無邪気に笑う少女を、今僕はどんな眼で見てるのだろう。
「……またバトルしたくなったら電話してね」
とりあえずそんなことを言った。少女は笑顔のまま「はい!」と答え、去っていった。
ああ、傷ついたポケモン達を預けに行かなきゃな。
そんなことを思い、行動に移そうとした矢先、見慣れないものが足元に落ちているのに気付いた。
それを拾い上げてよく見れば、その正体ははっきりと分かった。
「ポケモン図鑑……コトネちゃんの?」
聞いたところで、誰も居ない空間から答えは返ってこない。しかしポケモン図鑑を持ったトレーナーなんてそうは居ないし、きっとこの推測は間違ってはいないだろう。
「もう行っちゃったかな……」
ポケモンで空を飛んでいたりしたらポケギアで呼び出すしかないだろうが、さっきのバトルで彼女のポケモンもある程度傷ついていたし、最寄りのポケセンに居るかもしれない。ここは、届けにいってやるべきだろう。
結論は頭の中で出たのに、なかなか足を動かそうとしない自分がいることに気付いた。
結論を押し退けて、悪魔のいたずらな囁きが僕を唆しているんだ。
早く届けなきゃ……だけど。
僕はとりつかれたように手に持ったポケモン図鑑の中を見始めた。
静かな空間に、電子音が浮いて聞こえる。図鑑にはかなり多くのポケモンのデータがあった。僕の知らないポケモンもたくさんある。
こんなに彼女は、気ままに旅をして、いろいろなポケモンと出会って生きている。ジムに縛られ、町に縛られている自分とは正反対だと、自虐的な笑みを浮かべた。
他人のポケモン図鑑を見ているという罪悪感や背徳感など忘れ、一心不乱とでもいうように僕は図鑑を捲っていた。
そして辿り着いたページが――
「ホウオウ…………」
僕が探し求めたもの。
僕がでも得られなかったもの。
僕が選ばれなかったもの。
彼女が選ばれたもの。
彼女が捕まえたもの。
彼女が――――
――――彼女が。
ポケギアが鳴った。
電話のようだ。
機械的にそれを取ると、愛らしい声が慌てた様子で聞こえてきた。
「マツバさんっ、すみません別れたばかりなのに……。あの、わたしポケモン図鑑を落としちゃったみたいで! マツバさん知りませんか?」
ポケギア越しでも彼女が焦っているのが分かる。ポケモン図鑑はその辺に売っているようなものではないからなぁ。
あるよ、と言って届けてあげたら、きっとまた彼女の笑顔が見れるのだろう。
全てを魅了するようなあの
「――知らないなぁ」
憎らしい笑顔が。
―――――――――――――――
私の中ではこれはマツコトです←
久々の小説更新がこれだよ!
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