すとろべりー
最初から知っていた(チェレ→トウコ→N)
最初は皆一緒だった。
『一緒に最初の一歩を踏み出そうよ!』
『仕方ないなぁ……』
『せーのっ』
あのとき一緒に踏み出した足は、今はそれぞれ違う方向を歩んでいる。
それこそ、最初は思いもよらなかったような。
「こうして三人で集まるのって久しぶりだね!」
旅を出る前は、ベルと頻繁に遊びに来ていたトウコの家。その頃より心身が少し成長した三人が、テーブルを囲っていた。
「前はほとんど毎日会ってたのにね」
トウコがベルの言葉に同意を示す。
嬉しそうに笑う彼女の腰には、モンスターボール。その中には自分より強いポケモンが入っているのだ。強くて、優しい、主人にそっくりの。
「私ね、最近ポケモンの研究のために草むらに入って調査したりするの。もちろん野生ポケモンが飛び出してくるんだけど、中にはとても人懐っこいポケモンも居てね――」
各々、旅での出来事を教えあう。
ベルはアララギ博士の下でお手伝いをしているが、博士の代わりにいろいろなところに行き、実際のポケモンと触れ合ったりしているらしい。
資料を読んだりして研究するより、そちらのほうがよっぽどベルに合っているように思える。
「あはは、ベルらしいねっ」
笑う彼女の裏側に、秘めた想いがあるなんて誰が思うだろう。
「チェレンはどうなの?」
ベルが僕に話題を振る。
「相変わらず修業尽くしの毎日でしょー?」
「まあね。チャンピオンロードにいると、ときどきアデクさんに会ったりするよ」
「すごいね〜」
ベルが羨望の眼差しを向けるが、別にただ野生ポケモンを倒したり、通りかかったトレーナーと勝負したりしているだけだ。
「トウコは? 図鑑どのくらい集まったの?」
そして話題はトウコに向く。
トウコは少し考えるように目線を下に向けた。
「うーん……私ね、もっといろんなポケモンを見るために、他の地方に行こうと思うんだ」
「他の地方って!? 海の向こうってこと?」
ベルが身を乗り出す。
「まぁ、ハンサムさんが言ってたホウエン地方とかいろいろ……」
嘘だ。彼女は嘘をついた。
いろいろなポケモンを見たい? その気持ちもあるだろうけど本当は…………
「すごいなぁ〜! 私も行ってみた〜い!」
「それこそベルのパパが反対しそうだね」
「うー……。まぁ私は博士のもとではたらいてるの楽しいし、いっか!」
君が見たいのはポケモンだけじゃないんだろう?
笑顔の裏に隠した想いを、僕は知っている。
「……トウコ」
「なーに?」
その想いの大きさも、胸が潰れるくらい知っているんだ。
「頑張ってね」
この言葉が心から言えたら、どんなにいいことか。
彼女の行く道に、もう僕は居ない。
...............
脳では知っていても気持ちは諦められないし自分の想いを伝えることもない報われないチェレン氏
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