切原赤也の場合

俺はスマートフォンだ! しかも一番新しい機種で時代の最先端を行くぜ。
初めての仕事は少しだけ不安で、返品されたらどうしようと柄にも無くソワソワした。
そしたらまさかの丸井先輩も同じ家に行くらしい事を風の噂で聞き、ホッとしたのは言うまでも無い。
さあッ、いっちょ頑張っかあ!!

そう意気込んでから何ヶ月になるか。
飯は美味いし、手作りのデザートなんか店顔負けの上手さで最近体重がヤバ目。まあぶっちゃけ俺より丸井先輩の方が肥えてきたと思う。まあそんなこと言ったら〆られるから心に留めておくけど。
電話、メールは勿論、多種多様なアプリを落とし、使いこなせる持ち主を主人に持つ俺は幸せだと丸井先輩は言う。
まあ、それはそうなんだけど、ぶっちゃけ俺の持ち主は変態だ。女なのに変態だ。変態すぎてどうしようもない。
男同士がイチャイチャする画像なり小説なり見ては、ゲヘゲケはあはあと気持ち悪いの一言に尽きる。ブクマはそういうので満ち溢れ、俺は泣いた。それに何かと言うと金様金様ウザい。
丸井先輩の主人とトレードすべく密かに目論んでいる。

「ああ゛!! ちょッ、たんま! ストォオップ!!」
「……また?」
「コンボ技ばっか使うなよ! 俺瀕死じゃん!」

リベンジすべくコントローラーを握り続けるが、始めてから一度も勝った事がない。これはもう俺のこかん?にかかわるし、絶対勝ちたい。
つか勝つ!

「暁はコンボ使うの禁止!」
「……はあ」
「絶対駄目だかんな!」

はいとも、いいえとも言わなかったけど勝手にスタートボタンを押す。俺の持ち主と違って怒ったとこ見たことないし、無口だけど偶にお菓子くれるから俺は好きだ。そう丸井先輩に言ったらマゾ呼ばわりされた。
そうやって暫く二人でゲームを楽しんでいるとドタドタと嫌な音が近づいてくるのが聞こえた。バタンと乱暴にドアが開かれ、変態がズカズカ入ってきた。この家にプライバシー何てもんあったもんじゃない。

「こんの糞携帯ッ!アンタちゃんと仕事しなさいよ!!」
「はああ?」
「しらばっくれんじゃないわよ!書き留めておいたメモ、パソコンに送信されてないんだけど!?」

何キレてんだ、マジウケル、と鼻で笑う。

「笑ってないでさっさと送信しろ、モジャモジャ!!」
「ああ゛」

このアマ、マジ潰す。
怒りのボルテージが上昇する。

「今度やったらマジでスクラップにするからね!」
「ああ、そうかよ! 俺だってお前みたいな奴に使われんのウンザリなんだよ!」
「なんですって!!」
「お前みたいな変態女こっちからお断りだって言ってんだよ、この痴女がッ!」
「ふーん、アンタがそんな事言えるんだ、ふーん」

やけに冷静にそういった変態に何故か変な汗が噴き出る。何か、嫌な予感!

「知ってるんだからね。アンタが密かに撮ってる暁ちゃんの写真の数々」
「な!!」
「ご主人様に断りも無く、よくもまあ」

何故だ。あんな厳重に何重もロックをかけて隠しておいたのに!
してやったりとばかりにニヤつく目の前の変態が今日ほど憎いと思った日はない。まあ毎日更新されているけど。

「そーれーにぃ、その写真をオカズに」
「おわあぁぁあ!! 何言ってんだてめえ!!」
「……うふ」

マジ潰す。このアマ……、――マジ潰す。

「お前……潰すよ?」
「はんッ、やれるもんならやってみなさいよ」

視界が赤く染まる。俺にプライベートはないのかぁあ!

「ぃッ……、いてぇえ!!」

脳天がもの凄く痛い。ガツンと音がしたぞ。頭に響いたぞ。
痛みに悶えるのは俺だけじゃなく、変態も頭を抱えのたうち回っている。
誰だ、この野郎、と涙目で見まわすと、俺達の背後に仁王立ちの暁がいた。無表情だけど、何か怒っているのが分かる。もしかしてさっきのあれが聞こえたんじゃ、と顔が火照る。

「煩い、喧嘩するなら出てけ」
「うう、暁ちゃん酷いよ、赤也だけならまだしも何で私まで」
「ああ゛?!」
「桜、赤也煩い。喧嘩は一人じゃできないんだから、当事者全員対象なのは当たり前。例外はない」
「…………」
「赤也も桜も喧嘩するのは結構だけど、もっとお互いを尊重する様に」
「……はい」

俯き、そう返事するとポンッと頭に手を置かれ、わしゃわしゃと撫でられた。へへ、俺コレ好き。

「おーい、暁−……っと、なんだお前等もいたのかよ」

丸井先輩の登場の所為で暁のわしゃわしゃが終わってしまった。キッと丸井先輩を睨む。

「何やってんだ?」
「別に、何?」
「ん、ああ心から電話で、もうすぐ帰るから摘み食いすんなよって」

時計を確認し、結構な時間ゲームをしていたんだと驚いた。
今日の晩飯は何かなーとウキウキしていると、桜がモジモジしながら話しかけてきた。キモっ。

「……さっきはゴメンね、赤也」
「……別に、俺も言い過ぎたし……、悪かった」

今更ウダウダ言ってもしょうがない。ていうか今更他の携帯が来た所でコイツの変態趣味についてけるわけないと思う。割とマジで。
それに桜の変態的な部分に目をつむれば、何ら不満はない。何か喧嘩友達って感じで嫌いじゃない。
なんか改めて言うのも恥ずかしいけど……

「オイ……」
「――こんの糞豚ぁあ!!」
「……え?」
「ナニ人様のケーキ食ってんだッ!! スクラップにして養豚場の豚の餌にしてやろうかッ、ああん゛?!」

何、何だ。誰ですか、この人。丸井先輩はチョークスリーパーをかけられ白目を剥いている。あれ、俺の知ってる暁じゃない。
丸井先輩の断末魔が次第に小さくなる。ちびったのは内緒だ。

「私は全然良いと思うよ!」
「あ?」
「無機物攻め!」

はあはあ、と桜の鼻息があたる。

「でもでも、鬼畜な暁ちゃんに攻められてあんあん言う赤也の方が……」
「…………」
「よしッ、今度の新刊は鬼畜主人×淫乱携帯で決まりよ!」

野獣の様な雄叫びを上げ、変態は部屋を出て行った。丸井先輩は逆エビ固めをかけられ、意識が完全に飛んでいる。

「俺、もうこの家ヤダァアああ!!」

こうして赤也の受難は続くのでした。

おしまい



おまけ

「もうすぐ家に着くから」
「うむ」
「はは、そんな固くなんないで大丈夫だよ。家にはキミと同じ子がいるからね」
「うむ」
「二人ともいい子……、あ、赤也は少しヤンチャだけど、でもきっと仲良くしてくれるよ」
「ほう、それは楽しみだ」
「うん、俺も皆の驚く顔が凄い楽しみ」



沸点がもの凄く低い赤也携帯。何だかんだ仲は良い。

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