「ふ……ふぁああ……ッ」

眠い。目を瞬かせ、もう一度欠伸をする。
こっちの時間で真夜中に始まるリーグ戦はまだいい。早朝も早朝、まだ日が上ってもいない時間に始まるCLを見るのはそろそろ限界を迎えそう。
キックオフまで仮眠をとると言っても、早起きは身体に毒だ。それなら録画しろって話だが、スポーツはリアルタイムで観戦するのが醍醐味。
――時差がなあ……。
今まで何の不満も無かったが、キックオフ時間を早めて欲しいと切実に願った。はあ。

「――……なので、赤座布団を貰った人は放課後補習授業があるので一組に来て下さい」

それでも順当に白星を積み重ねているだけまだマシか。脅威になりそうなチームはイタリアのチームぐらいだし……、いやそんなこと思っていると予想外な所でこけるのがブルーズ達だ。
先週末あったリーグ戦も勝てた試合だった。それを終了間際にポカやって引き分けにしたくらいだし。
――何だかなあ。
いまいち波に乗り切れないブルーズ達に溜息が出る。取りあえずグループステージ位は安心してみたい。
そんな事を考えている間に授業は終わり、引き続き三限目に突入。眠くて集中できないまま授業は進み、気付けば昼食の時間になっていた。

受信したメールを開きながらお弁当をつつく。発信者は落とし前が欲しいらしい仁王雅治。
ラケットを買おうと繁華街のスポーツショップに出向いたのが運の尽き。何だか知らない奴等に喧嘩を売られた揚句、それを買うのも面倒臭く、逃げ回っていた末二度目の再開を果たした。一瞬誰だか分からなかったが、残念な髪色を見て思い出した。
落とし前が欲しいと言っていた割に、送られてくるメールはそれとはまったく無関係な内容が殆どだ。一々返信するのも面倒で放置していれば、電話がかかってくる始末。何がしたいのか分からない。

「早川って最近携帯結構弄ってるよな」
「ああ」
「向こうの友達?」
「ああ」
「そういえば俺、早川のアドレス知らないや――教えろよ」
「断る」

机に突っ伏し肩を震わせる浅倉を無視し、卵焼きを口に運ぶ。昼食時になると人に断りも無く机を突き合わせる浅倉にはもう何も言わないが、食べている時くらい無駄口を止めようとは思わないのだろうか。
隣の東条君はお昼になるといつの間にかいなくなっているし、私もどこか別の所で食べようか。もう少し温かい時期だったら屋上で食べているが、如何せん屋外は寒い。
震える携帯をリュックに仕舞い、残りのお弁当を堪能する。
食欲を満たしたことだし、次は睡眠を満たそうと机に上半身を預ける。今の時期は窓際のこの席が絶好の昼寝場所だ。日当たりが良くポカポカ温かい。
暫くまどろんでいると、いつの間にか本気で寝ていたらしく、気付けばホームルームの真っ最中。それもそろそろ終わりそうだ。
机の脇にかかっているリュックに手を伸ばし、帰り支度をしていると携帯が震えだした。
誰からだと手に取り確認すれば心だった。メールを開けばただ一行、隣町特売卵、トイレットペーパーとだけ書かれていた。
直帰して夕飯まで寝ていようと思っていたが致し方ない。それに確かスーパーの近くにはケーキ屋があった。帰りがけに買って帰ろう、そう考えれば今回のお使いはそれ程嫌ではなくなった。
ファスナーを閉め、席を立つ。

「おい早川、何帰ろうとしてんだよ」

腕を掴んできた東条君を無言で見返す。

「赤座布団貰ったやつは一組集合だ」
「赤……座布団?」

なんだそれ、と首を傾げれば呆れたように溜息を吐かれた。それに何やらざわめく教室内に疑問だけが募る。

「テストで二十五点以下の奴には点数の下に赤い二本線がつくんだ。それが通称赤座布団」
「…………」
「早川、返ってきた国語の答案用紙見返してみな」

何故東条君が私の点数を知っているのだろうと一瞬思ったが、堪らず東条君から目を逸らす。
近年稀に見る点数の低さに、自分でさえ目を疑った。思わず二度見したが、点数は変わらなかった。
何がいけなかったのか頭から見返せば、途中から回答欄がずれていただけだった。ただ仮にずれていなくとも六割取れているかといったところだろう。
私はその時決断した。国語も捨てる、と。それと桜にはもう少し優しく接してあげようと思った。

「忙しいから放して」
「話聞いてた? 赤座布団の奴は一組集合だって言ったよな?」
「ンなの知るか。東条君しつこい」

目を細め東条君を見上げる。
必要以上に踏み込まず、当り障りのない会話しかしてこなかった東条君が今になって口煩くなった理由は何だろうか。自分が何かしたかと記憶を手繰り寄せるが、思い当たる節があり過ぎて早々に考えることを放棄する。

「早川、お前いい加減……」
「――あ、UFO」

少々古典的過ぎる気の逸らし方だとは思ったが、思いの外効果てきめんだった。東条君のみならず、教室にいた他のクラスメイトまでもが窓の外を向いた。浅倉など「どこどこ」とベランダにまで出ている。自分でやっておきながら余りに素直なクラスメイト達に不安になった。
拘束が緩んだ瞬間を見逃さず、そのまま腕を振り切り足早に教室を後にする。背後で東条君の声が聞こえるが、そのまま手を振りながら階段を下りる。


「ちゃおッス」

心の事付け通り隣町のスーパーまで足を伸ばし、目当ての卵とトイレットペーパーを購入した。
そして直にそこを後にし、メインであるケーキ屋――ラ・ナミモリーヌへ直行。キラキラと宝石の様なケーキ達に目を輝かせ、その場で食べたい衝動を何とか抑え箱一杯にケーキを買った。
買い物に勤しむ主婦達の間を縫うように商店街を抜け、家路を急いでいた。そんな私の前に立ちはだかったのは、シルクハットを被りスーツを着た二足歩行の赤ん坊だった。

「やっと会えたな暁」

悠長に言葉まで話す始末。
自分が見聞きしているモノが余りに現実離れし過ぎていて処理しきれない。

「――お前をボンゴレファミリーの一員にするぞ」

処理しきれないが、この赤ん坊がアサリ業者の回し者だということ、それとこの前やった厄払いの効果はまだ発揮されていないと奇しくも悟った。



ハローベイビー

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