雲雀恭弥の場合


僕は携帯。
群れる奴等を見ると咬み殺したくなるお年頃。
だから誰かの所有物になるなんて絶対嫌で、いつも通り持ち主になった奴を咬み殺す事にしたんだ。
本当だったら今頃一人気ままにいる所だけど、僕は相変わらず持ち主のもとにいた。
この持ち主、見た目こそ草食動物だけど化けの皮を剥がせばとんでもない獰猛な動物に早変わりするよ。
だから僕が勝てるまで、この持ち主の携帯になる事にした。
でもこの持ち主僕をあまり使わないんだ。
電話があれば出るし、メールが来れば読むけど、必要最低限しか僕に触らない。
僕としては都合がいいけど、少し変わっているこの人に興味が湧いたね。

「ねえ、メールきたよ」
「……んー」
「だから、メールきたよ」
「……んー」
「……僕を無視しないで、咬みころ……」

最後まで言い切らないうちに意識が遠のいてきた。
――本当ムカ、つ……、く……。
そして気が付けば、教室に立っていた。
醒めきらない頭を無理やり覚醒させ、何食わぬ顔で帰り支度をしている持ち主の横顔を見下ろした。
無理矢理僕の電源落とすなんて、いい度胸してるね。

「――咬みこ」
「電源落とそうか?」

僕の顔すら見ずにそう言って退けた持ち主に顔が引きつる。
だけど此処で手を出すことが賢明でないことくらい僕でも分かる。
今ここで指の一本でも触れれば電源どころか僕の所有すら放棄しかねない。
前はそれを強く望んでいたのに、今はそれが嫌だなんて。
――何という皮肉だろう。
自傷気味に鼻を鳴らした。

「……何?」
「さっきのメール読んで」
「……『綺麗なサザンカが咲いたからお裾分け』、……写真見るかい?」

今日初めて持ち主と目が合った。
目を合わせたまま頷いた持ち主に送られてきた写真を見せる。
メールの相手は最近アドレスに登録された相手からだった。
家族からのメールすら偶にしか返さないという持ち主が、この幸村とかいう他人同然の相手には結構な頻度で返信するという快挙にでている。
――ワオ、表彰ものだね。
今も物珍しそうに写真を見ているけど、正直面白くない。
思わず手が滑った。

「……まだ見てたんだけど」
「そんなの知らないよ。僕の勝手でしょ」
「……はあ、……帰る」

持ち主はいつもそうだ。
僕が誰を咬み殺そうが、読みかけのメールを消そうが、持ち主は僕を怒らない。
溜息一つで全て済ませる持ち主に、物足りない気持ちがあるなんて僕は認めない。
ただやり過ぎると机の引き出しに入れられる。
この前なんか一週間入れっぱなしにされた、太陽が目に染みたね。

「ちょっと何処行くの。家は反対だよ」

珍しく帰り道を外れた持ち主に指摘したけど無視された。
いつもなら流す所だけど、僕にも鬱憤というものが溜まっている。
さっきの然り、偶には咬み殺す。

「……千寿」
「……芋羊羹、……だったら食べてもいいけど」
「知るか」

頭まであと拳一個分のところで聞こえたのは、以前僕が見つけてあげた和菓子屋の名前だった。
あそこの一日百本限定の御手洗団子は僕のお気に入り。
持ち主も美味しそうに食べていたのが印象的で、というか持ち主の表情が動くのは甘味を食べている時含め、ごく僅か。
だから僕は僕が気に入った和菓子の店を持ち主に教えているだけ。
――絶対持ち主のためじゃないよ、そこ。

「次の角左だよ」
「ふっ、……ありがと」

普段はありがとう何か言わない癖に、こういう時だけ口にするなんてずるい。
前を見て歩く持ち主の横顔を盗み見る。

僕が君の携帯で良かったね。
適度な運動も出来て、迷惑メールも通さない、それに美味しい甘味だって見つけ出せる。
そんな優秀な機能が付いた携帯は、僕以外考えられないよね。
しょうがないから、僕が飽きるまで付き合って上げる。
でも群れたら容赦なく咬み殺すから覚悟して。
まあ持ち主に心配はなさそうだけど、最近鬱陶しいのが増えてきたからね。
特にアイツとかアイツとか、アイツとかね。
あと一つ言わせて。
――僕を頻繁に落とすのは止めてよ。
咬み殺すのは死ぬほど好きだけど、僕が被害者になるのはお断りだよ。




(防犯ブザーの誤作動率が高い雲雀さん)

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