跡部景吾の場合


俺様は携帯だ。
おいお前、そんじょそこらのポンコツ機種と一緒にしてんなよ、あーん。
何てったって今をときめくスマートフォンと言えば、俺様だっ!
最新osの搭載でより使いやすく、高速データ処理もお手の物だ。
カメラ機能なんかデジカメが腰を抜かすほど美しいぜ。
まあ、――俺様の美貌には負けるがな、ふっ……。
多種多彩なアプリもダウンロード可能、勿論お前等が好きなSNSもな。
それに何と言っても音声操作機能が搭載され、より使いやすくなった。
十人十色、様々な使い方ができる携帯、それが俺様なんだ。
が!
そんなオールマイティな俺様を全く活用しない人間が持ち主だと知ったあの絶望感、……マジハンパねえ。
使う機能ときたら電話、メール、メール、電話、電話、メール、そのオンパレードだ。
しかも分かっただの、うんだのクソ面白くもないメールに寛大な俺様の堪忍袋の緒も切れたぜ。
それでわざとメールを送れなくしたら、アイツ何したか分かるか?
この俺様を、――ゴミ箱に捨てやがった!
運良くアイツの兄貴が気づいてくれたから良かったものの、危うくゴミ処理場が俺様の住処になる所だったぜ、危ねえ。
流石に汚い箱の中はもう勘弁だ、それ以来スピードスターも驚きの速度でメールを届けるぜ。

「おい、メールだ」
「……んー」
「おい、メールだ」
「……んー」

こんなやり取りもお手の物だ、流石俺様だろ?

「おい、メ」
「……読んで」
「……『授業受けろ』……お前の兄貴エスパーか」
「…………」

コイツは昼飯後、大抵屋上で昼寝をしている。
珍しく俺様を連れているのは感心だ。

「おい、返信はどうするんだ?」
「……適当に送って」
「『屋上でサボ……」

俺の意識はそこで途切れ、気付けば道を歩いていた。

「おい! 何急に電源落としてくれてんだ!」
「金井総合病院」
「……電車乗れ、乗り換え忘れんなよ」

そろそろ行き方ぐらい覚えろと言いたいが、コイツが電話メール以外で唯一使う機能だ。
偶には俺にも息抜きは必要だろ。
俺様の指示に従い間違えることなく目的地まで着いた。
まあ、こんなの屁でもねえがな!

「じゃ、また後で」
「てめえも真面目だな」
「…………」
「ふ、後で愚痴ぐらい聞いてやるよ」

そして再び意識が遠のく。
人の話は聞かないわ、直に電源を落とすわ、自宅に忘れるなんて基本中の基本だ。
この前なんか屋上に置きっぱなしにされ、流石の俺様も泣いたぜ。
――雨が降らなくて良かったな!
妹からデコデコのメールが届くたび羨ましいと思っている俺がいるなんて絶対認めねえ。
だがこんな勝手な持ち主の相手は俺様ほどの技量を持った携帯にしか勤まらない、――絶対な。
これも運命だと思って、一生仕えてやるぜ。
覚悟しろよ!
唯一つ言わせてもらうなら、――俺様にも服を着せろ!




(某スマフォに音声認識機能がついてますが日本語はなかったと思います。そこは跡部様特別仕様という事でよろしくお願いします)

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