とある少女の怪異録 | ナノ

03

どうやって帰って来たのか分からない。気付いたら真っ暗な自室に立っていた。
何をするでもなくただ茫然と立ちつくしていると、カサと紙の擦れる音が聞こえ、目だけを音の方へ向ける。握りこんでいた拳の隙間から紙の一部が飛び出していた。
いつからそうしていたのか分からない拳を緩め、ゆっくり指を開けば今日のラッキーアイテムが原形をとどめない程にクシャクシャに握り潰されていた。
その哀れな姿が今の自分を象徴しているようでどうしようもなく腹が立ち、こんなものと苛立ちをぶつけるように腕を振りかぶる、が振りかぶった拳を振り下ろす事は出来なかった。
これをなげてどうなる。こんなことをして何の意味がある。
左腕から力が抜ける。
――悪いのはオレなのだよ。
おは朝の助言を聞かず見ず知らずの人間に話しかけたのは自分自身なのだから。
足から崩れ落ちるようにしてその場にへたり込む。
これからどうしよう。どうすれば。そればかりが頭の中を占めていた。
そしてどれ程の時間そうしていたのか分からないが、ふとある可能性が残されている事に気づいた。

オレは少女になど会ってはいない

オレはあの時誰もいない校舎が不気味だと感じていた。
人間の脳はある種の刺激を受けると過去の記憶を無造作に呼び起こしては、実際にはその場に存在しない映像や音などがあたかも体験しているかのように感じてしまうことがあるらしい。
確か以前、学校が舞台のホラー映画を見た覚えがある。今になって思えば、その中に出てくるワンシーンが今日の出来事ととても酷似していた。
夜の学校、誰もいない校内、長い廊下、そして赤いワンピースを着た少女。
全てが合致した気がした。
あれは脳が作り上げた偽装情報、いわば幻覚の類だったのではないだろうか。
深く息を吐き、肩の力を抜く。
馬鹿馬鹿しい。そもそもあんな非科学的な事がある筈はないのだ。
――あってはおかしいのだよ。
ありもしないものに恐怖を覚え、怯えていた自分を嘲笑し、いつまで暗い部屋にいるつもりだと壁に近寄り電気のスイッチに手を伸ばす。一瞬で部屋は灯りに包まれ、暗闇に慣れた目が眩む。
ひらかれていた瞳孔が徐々に調整され、ものの数秒で視界は良好。
いつの間に放したのか、フローリングの上に無造作に鞄が横たわっていた。鞄を拾い、机の上に置き直す。そしてファスナーの引き手を指で摘まみ、横に動かそうとするが意思に反し指が動かない。
アレは脳が見せた映像だと分かっている、分かってはいるが少女の残像が脳裏をチラついている。
――しっかりしろ。いつまで惑わされているつもりなのだよ。
頭を左右に振り、少女の姿を頭の中から叩き出す。
浅く息を吐き、半ば勢いでファスナーを横に引き、勢いそのままに鞄の口を左右に大きく開く。

「ッ!!」

咽喉が閉まり、息が止まった。追い出した恐怖が全身を覆う。
鞄の中から人形の濁った瞳がオレを仰ぎ見ていた。
どうして、なんでと震える足で後退り、ふくらはぎに何かが当りそのまま腰が抜けた。

「ど、して」

頭を抱える。

「何故なのだよ!!」

だってアレは幻覚で、少女は実際にはいなくて。
髪を掻き毟る。

『……ニまたアおうね』

脳は時に嘘の情報を流すことがあって。だからアレは、……アレは?

『七 日 後 に ま た 会 お う ね』

少女の科白がいつまでもリフレインしていた。


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