とある少女の怪異録 | ナノ

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私には息子が一人います。
年を取ってできた子供ですから、大切に大切に育ててきました。初めてハイハイした日、立ち上がった日、ママといった日。わが子にとって初めての出来事は今でも鮮明に覚えています。親馬鹿というかもしれませんが、ひとつひとつが私にとってかけがえのない宝物なのです。決して贅沢できる生活ではなかったけれど、家族三人慎ましい生活を送っていました。笑顔の絶えない家。その言葉が当てはまるのは我が家だったと豪語できる、幸せな家族でした。優しい夫に可愛い息子。私はこの幸せが永遠に続くと信じて疑いませんでしたし、どこの誰がこの幸せを壊わすと思うのでしょうか。ですが神様は残酷なのです。そんな幸せはあっという間に崩れ去りました。三年生も残り僅かとなったある日、『息子が怪我をした』と突拍子もない内容の電話を受けました。一瞬何を言っているのか理解できなく、いえ何かの間違いだと、聞き間違いだと思い聞き返しました。頭で理解するより先に身体は分かっていたのでしょう、気付いた時には息子のいる病院へ走っていました。そして顔の半分以上を包帯に覆われ、チューブに繋がれた痛々しい姿の息子をベッドの上で見た瞬間私は泣き崩れました。他の人間がいるのも気にせず大声で泣き叫びました、「どうして」「なんで」、と。そんな半狂乱な私に向かって医者は淡々と「命に関わる怪我ではない」と告げ、そして最後に私を、いえ息子を切望の淵から突き落とす言葉を付け加えました。「顔の傷は一生残るだろう」、と。昨日まで元気に走り回っていた息子が今は病院のベッドの上にいるということを誰が想像できたでしょう。何故息子がこんな怪我を負わなければならなかったのでしょうか。仕事を早退し駆けつけた夫と二人涙で頬を濡らしていました。その時です、病室に一人の男が訪ねてきました。男は言いました「ご子息の怪我は私の娘を庇ったせいだ」と。そして男は深々と頭を下げました。それを見た瞬間、怒りで目の前が真っ赤に染まりました。私は手当たり次第男にモノを投げつけ、酷い言葉を浴びせました。夫に手を止められても、口は止りませんでした。男はただ申し訳ないと頭を下げるだけでした。私も本当は分かっていたのです。息子の怪我は不運な事故だった、と。誰も責められない、と。だけど私の心は全てを受け入れられるほど広くはないのです。一日経っても二日経っても息子の瞼は硬く閉じられたままでした。医者に何度詰め寄った事でしょうか。しかし医者は、脳に異常はない、直ぐに目を覚ます、とまるで壊れたラジオのように同じ言葉を繰り返すだけでした。夫も「先生を信じよう」としか言いわず、そればかりか病室へ訪れる回数も減っていました。夫からは息子が心配だという気持ちが微塵も伝わってきませんでした。夫は息子の心配などしていません。もう誰も信じられない。息子を守れるのは自分だけだと、そう思いました。そんな折、再び男が息子の病室を訪ねてきました。本当は誰とも会いたくありませんでしたが、あんな酷い事をしてしまってもなお謝罪に訪れた男の厚意を無碍には出来ませんでした。どうぞ、と一言声をかければ僅かしか開いていなかった扉が半分くらいまで開かれました。そして私は気付いたのです、男の隣に女の子が立っている事に、そして彼女が息子の友達であるという事に。俯き加減だった女の子が顔を上げた瞬間、頭に血が上っていました。息子はあんな大怪我をしたのに、何故お前は傷一つないんだ。おかしい。お前が怪我をすれば良かったんだ。お前がお前が。言葉汚く女の子を罵り続けました。いつの間にか男の姿も女の子の姿も在りませんでした。それから数日経って息子は目を覚ましました。退院した後、私と息子は町を離れ私の実家がある田舎へと移り住みました。息子も今ではあんな怪我を負ったことすら感じさせないほど元気に成長しました。息子は学校に遊びにと日々忙しく過ごしています。そんな息子の姿を見ることだけが今の私の幸せなのです。
ですが息子の顔に刻まれた痛々しい傷跡を見る度思うのです。どうかーーガキが苦しみますように、と。日々願っているのです――ガキにも同じ苦しみを、と。


苦しめくるしメ苦しめくるシめクるしめ苦シメくルしめ苦しねクルめ苦シめクルしめくるしメ苦シメくるしね苦しメくルしめくるしめ苦しメくルしめ苦シメクルしめ苦シネくるしメくるしねくるしメクルしめくるしメくルしネくるしメクるシメくるシメくルシねクルシメクるシめくルシめクルしめくルシメくルしねクルしメクルシメクルシメ ク ル シ メ


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