とある少女の怪異録 | ナノ

「あれ、さつきちゃん――?」

今朝の朝練時に第二体育館で不備が見つかった。その不備がどういったものかまでは伝えられなかったけど、どうやら修復工事が結構大掛かりらしく、第二体育館は一週間の使用禁止になった。
先月定期検査を行ったばかりの中見つかった不備に、急きょ第一体育館から第四体育館まで全ての体育館でも一斉点検が実地される事を昼休みに通達された。それは即ち体育館練習ができないという意味で。
まさかそれが理由で練習が休みになるなど頭の片隅にも無く、放課後の練習は外周に変更かなあと勝手に思っていた所にまさかの放課後の練習は休みだと続けられた。珍しいこともあるのねと率直な感想を懐いたのは自分だけではない筈。
そうして放課後の予定はぽっかり空いてしまった。
ホームルームも終わり、残るクラスメイトも疎らとなった教室でのんびり帰り支度をしていた所で耳に私の名前が流れ込んだ。
座ったまま上半身だけ後ろへ捻れば、クラスは違うけど同じ委員会に所属していることから仲良くなったA子ちゃんがあれ?というような表情を浮かべ入口から顔を覗かせていた。

「部活行かなくていいの?」

そう疑問を投げかけながら彼女の足は廊下と教室の境界線を踏み越え、教室の中へと入って来た。
「どうしたの?」と首を傾け、椅子に座る私を見下ろした。

「うん、体育館に急きょ点検が入るからってね、練習中止になったんだ」
「へーそうなんだ」

良かったね、と続けられ苦笑いを浮かべる。
それから放課後の予定がぽっかり空いてしまい、これからどうしようか座って考えていた、まで伝える。
放課後は元より休日も練習はあって、自由にできる時間は限られている。そんな時に降って湧いた空き時間を有効に活用したいけど、ショッピングに行けるだけの予算は残念ながら持ち合わせていない。分かっていた事だけどもしかしたらとお財布の中を確認し、ガクと肩を落としたばかりだ。
同じマネージャー仲間のみっちゃんとあっちゃんはどうかなと誘おうとしたけど、誘う前に二人の口から放課後の予定を聞かされ「さつきちゃんは?」と逆に質問される始末で、うーんと曖昧に答えるので精一杯だった。
青峰君のとこに行こうかなと思いもしたけど、あのバスケ馬鹿が大人しく家にいる訳ないと除外した。きっと今頃黒子君とストバスにでも向かってる最中だよね。
しょうがない。今日は大人しく家に帰って出された宿題でもやろう。
「それならさ」というA子ちゃんの科白に無意識に顔を上げる。
なんて健全な中学生だろうね、はあ。哀しくなった。

「コックリさんしない――?」

吐きだしていた溜息が止った。
コック、リ、さん?
瞬きを増やしながら言葉を繰り返す。
そうすれば彼女は満面の笑みで「そう、コックリさん!」と距離を縮めてきた。
四人でやる予定だったけど、一人の子が急用で帰らないといけなくなりその子の代わりを探している途中に私を見かけたらしい。

「もしこれから用事ないんだったら、一緒にやらない? コックリさん」

「ねえ?」「ダメ?」とぐいぐい迫るA子ちゃんに表面上考える振りをしながらも内心は焦っていた。
というのも昔から私はああいう類の遊びはどうも苦手で、勿論幽霊とかこれっぽっちも信じてないけど、所詮遊びということは分かっているけど、何となくやってはいけないとそう思ってしまうのだ。
それでも「ねえやろう」と目を輝かやかせ、手を握る友人の誘いを断る事は私には出来なかった。

「う、うん、いい、よ……」
「マジ!? やった!」

鏡を見なくても今の自分の顔は盛大に引き攣っていると分かる。だけどそれに気づいてくれないA子ちゃんは嬉々と握っていた手をそのまま引いて行く。
自らやると言っておきながらも、やっぱりヤダな、というモヤモヤした気持ちを携えたままコックリさんをやる教室に到着してしまった。繋がれていた手はいつの間にか解かれていた。
「ただいま〜」とひらひら手を翳しながら教室に入っていくA子ちゃんの背中を目で追う。自分の教室じゃない教室に入るのは少し気まずく、入口の傍で立っているのがやっとだった。
室内にはさっきまでいた自分の教室と同じ程度の人数しか残っていない。
その中でコックリさんをやると思しき二人が一つの机を囲っている四つの椅子のうちの二つに着席し、A子ちゃんと話している。
二人とは面識はあるけど、友人という枠に当てはまるかと問われればちょっと違うかなって感じで。そんな二人は私に存在に気づいたらしく、おいでおいでと手招きされ、三人の近くに寄る。

「誰連れてくるのかと思ったら桃井さんだったんだあ〜」
「あ、そっか。今日バスケ部の練習休みになったんだっけ」
「うん、そうなの」
「あーあ、赤司様の練習する姿見れなくてちょー残念!」
「ええ、様?」
「あー赤司様は何であんなかっこいいんだろうね」

ウットリ顔をほころばせるBさんに何と言葉をかけたらいいのやらで言葉が詰まる。
えーと、と視線を彷徨わせるとCさんと目が合い、彼女はほっとけとばかり首を横に振った。
そうして十分二十分他愛もない世間話をし、気付けば教室に残っているのは私達四人だけになっていた。

「じゃ始めよっか」
「だね!」

ウキウキという音が聞こえてきそうなほどはしゃぐ三人には申し訳ないけど、私の気分は盛り上がらず、消えていた不安が顔をのぞかせていた。
どうしてか嫌な予感がしてしょうがない。

「本当に、やるの?」

その言葉の裏に「止めたほうが」と張り付けてみたものの、A子ちゃんは勿論と笑顔で答えた。

「それに今からやるコックリさんは――本物なんだよ」

A子ちゃんが自慢げにそう言い、本物?どういう意味?と首を傾げれば、彼女は「やってからのお楽しみ」と悪戯でもする子供のような表情を浮かべた。
十円玉の上に指を置くときにA子ちゃんの人差し指に絆創膏が巻かれているのに気づいた。
怪我したの?と聞けば、ちょっとねとそれもまた曖昧な、短い返事が返ってきただけだった。

「お狐様、お狐様、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら鳥居へお進みください」

そうして虚しくもコックリさんは始まった。
だけど始まったそれは自分が知っているコックリさんとは若干相違があった。
おきつねさま? それって狐のこと、かな? 
それに何だろう――コレ。
良く分からない、漢字が間延びしたような文字が鳥居を囲んでいる。
これがA子ちゃんの言う本物のコックリさんなのかな、と幾つもの疑問符が頭の中に浮かぶ中、四本の指が乗った十円玉がスルスル紙の上を滑る。
こういうのって普通もっとこうゆっくり、蛇行しながら動くものじゃないの。
そう驚いたのは私だけじゃなかったらしく、チラと視線を向けた先のBさんとCさんも目を丸くしている。
驚く程滑らかに鳥居まで移動した十円玉に気味悪さを通り越して驚きしかなかった。これじゃ怖さも半減じゃない?
そっとA子ちゃんの様子を窺えば、真剣な眼差しで十円玉を凝視している。
そのあまりの真剣さに小さく笑ってしまう。
BさんもCさんも私と同じで口元が大層緩んでいた。その二人と目が合えば、お互いが小さく吹き出した。

――めちゃ真剣なんだけど!
――ちょーウケる!!
――だね!

口の動きだけで会話する。
気合の入り過ぎているコックリさんも中々斬新だなあ、と一転この一時を楽しむことにした。

気になっている男子の事、彼氏はできるかなど定番の恋愛関係の質問から始まり、明日の授業で指名されるか、今日やった小テストの結果など様々な事を聞いた。その度に十円玉は忙しなく紙の上を滑り、躊躇なく答えを出している。
A子ちゃんが、それかBさん達が動かしていると分かっていても、返ってくる返答のリアルさに若干ひく。
A子ちゃん達はそんなことなど気にもしていないようでコックリさんの返答にきゃきゃと一喜一憂している。
だけどBさんがした明日の数学の授業は自習になりますかという質問に対する答えを見た瞬間、場の空気が凍りついた。
それは悪ふざけというにはあまりに行き過ぎたもので、それと同時にA子ちゃんがこんな答えをするだろうかという疑問も浮かぶ。
幾ら遊びと言っても彼女がそんな事をするとはどうしても思えなかった。
ギクシャクする空気もBさんのお陰で和らいだけど、ふとA子ちゃんが気になり横目で様子を窺えば、赤みがさしていた頬には色がなく顔色が悪いような気もする。
もうコックリさんは終わりにした方が、と言ってはみたもののA子ちゃんがその要望を聞き入れることはなかった。


はい おおたせんせいはじどうしゃじこにまきこまれてがっこうにこられないためじしゅうになります


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