とある少女の怪異録 | ナノ

16

「赤ちん、ミドチンのことどうするつもり?」

紫原の声が静かな夜道に響いた。
それは誰もが聞きたかったことで誰も聞かなかったこと。
その証拠につい今まで煩いくらいに談笑していた青峰も桃井も口を閉ざした。

「オレが如何にか出来る問題ではない」
「えー、でもこのままだとミドチン二軍落ちになっちゃうしー」
「そんなことは言われなくとも分かっている。だが緑間本人に部活に出るという意思がない以上どうすることもできない」
「でもよ、ここ何日かおかしくなかったか緑間のやつ」

青峰の科白で浮かぶのは、ここ数日の緑間の行動だ。

「なんつうか浮き沈みが激しいっていうか。昨日の朝練はキレキレだったけどよ、放課後になったらシュート外しまくってたし」

練習中に突然大声を上げた時は、気でも触れたのかと驚きを隠せなかった。
煩いと言って耳を覆っていたが、いや叫ぶ前から耳は塞いでいた、か。
それはまるで、聞きたくない音を拾わないようにしているようで、だがあの時耳を塞ぎたくなるような音などオレには聞こえなかった。
ならば、緑間は一体何を聞きたくなかったと言うんだ。

「んで今日の無断欠席だろ? どうしたんだよって感じだぜ」

緑間が理由もなく無断欠席をする奴でないということはオレが一番分かっている。
その理由を知るため放課後緑間の元へ赴いたが、緑間から発せられたのは紛れもないーー拒絶だった。
酷く憔悴しきった顔には生気が感じられず、緑間の身に何かが起こっているのは明白だった。だがオレには、それが何なのか全く分からない。
チームメイトが苦しんでいる時に、オレは何をやっているんだ。
自分の不甲斐無さに嫌気がさす。

「え、あれって」

驚きが含まれた桃井の言葉に顔を上げる。そして桃井の指さす方に目を向け、目を見開いた。
道を挟んで向かいにあるファーストフード店に緑間の姿があった。

「あれってミドチン、だよね」
「んん? 緑間の前に誰か座ってんぞ」

今いる位置からはそこそこ距離がありよく見えないが、確かに緑間の向かいに誰かが座っている。

「あ、立った!」
「はあぁ女!?」
「青峰煩いぞ」
「いや、だってよ」

道側に出てきたことで二人の姿が良く見えるようになった。
一人は紛れもなく緑間だ。もう一人、緑間の向かいに立つ人間に見覚えは――ない。
だが身に纏う服装から推察して、彼女は間違いなくうちの生徒だ

「うお!!」
「ミドチンやるー」
「きゃー!!」

煩い三人が思い描いた展開にはならず、女子生徒は緑間の額に手を置いたまま動かなくなった。
あいつらは一体何をやっているんだ。
緑間は女子生徒と会う為だけに部活を無断欠席したというのか。果してあの緑間がそんなことをするだろうか。
疑問は深まるばかりで、真相は一向に見えない。
そう思っている間に緑間と女子生徒は別れていた。

オレは緑間のために何ができるだろうか。


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