『灰かぶり』 p7/p10



ある所に、母親に先立たれた心優しく美しい娘がおりました。
父親は連れ子のある女と再婚しました。娘にとって継母となる女とその子供、そして娘は互いに仲良くなりました。それぞれ、仲良くなるために努力したのです。

何年か後、優しい継母は、家から中々出ない娘や継子も結婚するのだから、と男を2人連れてきました。金髪の男と、黒髪の男です。
彼らは2人とも、王国に仕える騎士でした。娘は黒髪の方を、継母の子は金髪の方をそれぞれ気に入り、2組の恋人が誕生しました。仕事で王城に行っていていないことが多く、中々会えませんが、お互いに会える日をとても幸せに過ごしました。



――青白い月が夜空の闇を照らしているようだ。
金属製の窓枠から洩れてくる光だけが、この質素すぎる部屋の暗がりを、ほんの少しだけ駆逐している。だがそれはとても微少な光源にしかならない。虚ろな、夜を駆逐する希望には程遠い。
眠れずに明かす夜。肩の辺りで切り揃えた髪が、膝を抱える動きと共に揺れた。


そんなある時、王様方が外国へ行っていないのをいいことに、王城は騎士たちが宴会のような騒ぎぶりでした。
葡萄酒の大樽を開けては飲み、開けては飲み。皆が皆存分に酔いしれて、騎士の中には恋人がいることを自慢する者まで現れます。その宴と扉一枚を挟んで、恋人がいると言った騎士たちの名を、そっと呟いた男がいました。

その男とは、王様方と外国に行ってはいなかった王子様でした。何時まで経っても自分に相応しい人を見つけられない王子様は、自分が持っていないものを持っている騎士たちに大層嫉妬しました。
殺してしまおうか、とすら考えます。ですがそんなことをしてしまえば、王様の怒りは避けられません。それに、ややもすると死罪にされて天の国へ行くこともできないでしょう。

そこで、王子様はよい案を思いつきました。
自分より全てが劣っている騎士ごときに、どうして自分が求めるような美しい恋人などいるのでしょうか。いや、いるはずもない。つまり何処かしら醜いところのある女のはずだと。騎士どもの目の前で、彼らの恋人の女の醜さを嘲ってやればいいと思ったのです。
王子様は扉越しの宴会を嘲るように笑い、立ち去って行きました。



―――ふかふかした最高級の寝台でいつものようにすぐ寝付いたはず。
だが月が明るいせいか、眠りの海から引き上げられたかのように目が冴えてしまった。
蔓薔薇などの華麗な模様が描かれた寝台の内天蓋を眺める女の長髪は、寝台に藻のように広がって微動だにしなかった。
天蓋の模様すら憎いとでも言うのか、鋭い眼光を投げ続けている。



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