『断章』 p1/p10



床にはいつくばり、陸に揚げられた魚のように苦痛の悲鳴も上げられぬ唇をわななかせる若い男。
表情は醜く歪み、端正な顔を汚す汚らわしい紅を、拭うことも出来ぬ哀れな末路。美しさを追い求め、"生き神"を創り崇めたことこそがこの男の運の尽きとも言えると哀れんでみせる者がいる。

(天の父を冒涜する"異端"なり!)

それを、神秘的な美貌の少女が見ていた。男と彼女が、一瞬目が合う。
典雅な眉間に一瞬皴が寄り、彼女は滑らかな動きで十字を切った。

「天にまします我等が父よ―――」

ぱた、と祈りの形に組まれた手の甲に透明な雫が落ちる。さらさらと長い前髪に隠れて誰にも見えぬ瞳は昏い。



Malicious Tale
 (悪意ある物語 ―灰かぶり―)


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