『灰かぶり』 p8/p10


そしてその数日後に、外国から王様と王妃様が帰ってきました。
王子様は、王様に舞踏会を催してほしいと言いました。幼少の頃から気が難しいせいかあまり女性と付き合うことのなかった王子様が、自分から女性などと関わる舞踏会を開きたいと言うのです。王様はすぐにそれを許しました。王子様の本当の目的には気付かないまま。

そして数週間後、遂に舞踏会が催されました。王様が国中に招待状を出したので、沢山の人が招かれました。その中には、数週間前にあの宴会で、恋人がいると自慢していた騎士とその恋人も、たくさんいました。
周りを他所に二人だけの世界を作り上げているところへ、王子様は割り込んで無粋な言葉を投げていきます。やれここに痘痕があるだの、やれウエストが太いだの。騎士も女も反抗が出来ないことをいいことに、王子様は言いたい放題です。

あの騎士どもの全てを辱めなければ気が済まない王子様は、最後にあの娘と黒髪の騎士、継子と金髪の騎士の所へと割り込もうとしました。ですがその娘たちはとても美しく、詰れるような欠点と言えるものが見当たりません。騎士のくせに、美しい女を得るなどあってはならないことだ。そう、この女たちは――自分の物になるべきもの。
怒った王子様はとうとう割り込み、「お前の恋人を私によこせ」と言ってしまいました。
娘も継子も、2人の騎士も、王子様が何を言ったのか一瞬分かりませんでした。

ぽかんとしている4人に王子様はもう一度、「その娘2人を私の妃にする!」と叫びました。王子様のその声に、舞踏会に来ていた人が皆4人の方を見ました。人垣が割れ、王様と王妃様が4人と王子様の方へやってきました。王妃様は、互いに手を繋いでいる2組の男女を見るや王子様が何をしようとしているのか察し、顔を青くしました。
「やあ、どうです?父上、母上。この2人が私の妻ですよ」
「何と悪しきことです…人の恋人を奪うとは!あなた、何とか言ってくださいまし!」
王様は無言で王妃様を制しました。
「…王子よ、それに関してこの騎士と乙女本人たちは何と言ったのだ?」
「無論、喜んで差し出すと言いましたよ」
そう王子様は素知らぬ顔で言いましたが、そんなの嘘っぱちです。継子と金髪の騎士は王子様の言うことに従う素振りを見せましたが、娘と黒髪の騎士は猛然と反発します。
「それは嘘でございます、お聞きください陛下!私は彼女を差し出すなど一言も申しておりませぬ!」
「私もですわ!私たちは愛し合っています。それ以上は何も望みません!」
2人の反発を、王子様は憎々しげな表情で見据えました。王様は、王子様が我が儘で一度言い出すと聞かないことを知っています。首を横に振って、騎士にこう言いました。
「お前には位でも金でも何でも与えよう。だからその娘を王子にやってくれぬか?」
「申し訳ありませんが陛下、彼女は物ではありませぬ。1人の人間なのです。陛下のお頼みでも、彼女との仲より大切なものなどございませんので…」
悲痛に顔を歪めながら、必死に黒髪の騎士は王様に語り掛けます。そんな騎士の悲壮さを嘲笑うかのように王子様は、
「決まりだ!明日、そして明後日に、私は此処の女1人ずつと結婚式を挙げる。まず明日はこちらだ」と言って、娘の方を指差しました。わっと娘は泣き崩れます。黒髪の騎士はその背を優しく抱き締めました。
「何とかいい方法を考えよう。きっと王子様との結婚を逃れる方法があるはずだ」
とこっそり娘に言い聞かせます。娘はそれに小さく頷きました。

「明日、明後日には我が王妃となる2人だ。私が迎えに来るまで、ちゃんと護衛しろ!」
あろうことか王子様は、王子様に捧げる為に恋人を護衛しろと残酷にも言いました。
見張りの家来までつけて、王子様は彼らを娘たちの家へ丁重に送っていきました。



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