sand glass...










乗り手を選び、乗り手の命を欲しがる機体。


同化現象の塊のような機体だと――


そう形容される。


だから誰しもがきっと思った事だろう、『それ』に選ばれたのが『真壁一騎』だったのだ、と。


けれど果たして本当にそうだったのだろうか?


確かに『それ』に乗る事で刻一刻と一騎の命の砂時計は、サラサラと流れ落ち消耗し続けてゆく。
しかし「奪われている」のは、「壊している」のは、「塗り替えている」のは果たして一体どちらなのか…

淡い緑の結晶が砕けては流砂の様に、『それ』の足元を埋めつくしてゆく。
フェストゥムの世界。存在と無の挾間で身動きが出来ず、ただ立ち尽くしながら『それ』は思った。


(そう…、これは流れ落ちる砂だ)


「奪ったもの」が「壊したもの」が「塗り替えたもの」が、こうしてひっくり返された砂時計みたいに『それ』に向かって流れ落ち蓄積され埋め尽くしてゆく。
淡々と、淡々と、重力に抗えずに落下し続け、目方を減らしてゆく砂の様に。

もともと救世主(ザルヴァートル)等と名を付けられ生まれたけれど、コアの単独再生に伴い一度ドロドロに溶けて生まれ直したのが『それ』だった。
毛虫が蝶々になる様に…。蛹の中で一度その形を失い液状になり、醜い姿からまったく異なる姿へ生まれ変われるそれと同じに。
『存在そのものが全く別のものになるなる事』を受け入れなければ、乗れない機体とされる自身が、書き換えられ再構築された存在なのだから、『それ』にとっては皮肉な事なのかもしれない。

あの時、怒りに任せて自分を溶かしたのは『誰』だっただろう?

形を失って流れ込んできた存在は『誰』だっただろう?

溶けた中から再構築される要素を選び取ったのは、果たして誰だったのか…

流れ落ちてくる緑のカケラを眺めながら『それ』は『真壁一騎』の姿を模倣した己の手をじっと眺めた。
少しずつ少しずつ同化現象で一騎の視力を蝕み見えなくした分だけ、『それ』の赤く染まった両の目はハッキリと世界を映しだしてゆく。
きっとこのまま砂時計が流れ続ければ、やがては一騎の全てをその身に移す事に…、いやその身を書き換えられる事になるのだろう。
「奪われて」「壊されて」「塗り替えられて」そうして最後の瞬間、一騎の命を奪ったのだとその『存在』のすべてを『それ』は押し付けられるのだ。

その事が理不尽だとか不愉快だとか思える感情は生憎と『それ』には湧かない。
嬉しくも楽しくも悲しくも淋しくも無かった。
ただ『それ』は思うのだ、











「俺がお前を選んだ訳じゃない、お前が俺を選んだんだ、…一騎」











砕けて流れ落ちる碧の結晶の中で、『それ』が―――

機体コード、マーク『ザイン』が一騎の声音でぽつりと呟いたその言葉は、誰に届く事もなく存在と無の狭間で溶けて消えた。






Image illust:貴瑠様(Twitter)






END









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