理由なんていりませんただ好きなんです
――『彼女』はアンタの何処が好きって?
大学のサークルの飲み会。
こう言う席での女子の強引さにはいつも敵わないし苦手だと思う。
ましてや相手は先輩で、どうやってもこちらの分が悪い。
「ノーコメントです」
皆城総士はうっかりと吐かされてしまった『恋人』の存在を、ジリジリと追い詰めるようにして根掘り葉掘り問い質されていた。
適当に言葉を濁しつつ少々うんざりしながら、氷で薄まってしまったウーロンハイのグラスを傾ける。
「これだから皆城は」とか「ごまかすなんて付き合いが悪い、こうなったら『彼女』の謎を説き明かすまで帰さん!」なんて、酔って出来上がってしまっている女の先輩達が絡み出してきた。
それを男子勢は気の毒そうに眺めるだけで、こうなってしまうとかなり面倒臭い。
どうやってやり過ごそうかと思っていると、思わぬ方向に事態は転がった。
――真壁、アンタ達幼馴染みなんでしょ?学内でもずっと一緒で仲良いし、皆城の『彼女』の事教えなさいよ。
総士の隣で枝豆をひたすら剥いていた一騎に、先輩が仁王立ちでビシッと人差し指を向けたのだ。
先輩の指先にぱちりと瞬きをした一騎は、少しだけ考えるそぶりを見せ、コクっと素直に笑って頷いて見せた。
「いいですよ。俺、総士の『彼女』とも仲良いんで色々知ってますし」
「おい、一騎!」
「良いから良いから。あ、はい、枝豆」
焦る総士に一騎は大量に剥かれた枝豆の乗った皿を、目の前のテーブルへスライドさせ差し出した。
その中の一粒を摘むと総士の口に豆を放り込んで黙らせる。
その鮮やかな手腕に、先輩達は気を良くしてケラケラ笑っていた。
――相変わらず甲斐甲斐しいね〜。
――さすが皆城のお世話係!
見た目に反して総士の性格がかなり不器用であるのはこのサークルでは周知の事実。
そして小さな頃からの幼馴染みである一騎が、お世話係と呼ばれる程に何くれとなく彼の世話を焼いている姿も、最早見馴れた光景と化していた。
一騎と言う緩和材があって、総士の日々の調和は保たれている。
そんな総士に『恋人』だなんて親密な人間関係を築けたのかと、まわりから好奇心や興味を引いてしまうのは仕方のない話しだった。
――でさー、ぶっちゃけその『彼女』は皆城の何処が好きなのかしら?頭の良さ?それともやっぱりこの綺麗な顔?
「うーん、そもそも何処が好きとか具体的な理由と言うよりかは、理屈とか条件とか外見なんか抜きにして、ただ純粋に「好きだな」って思う気持ちそのものが息をするみたいに自然な事なんですよね。総士が総士だから好きなんだと思う…ってその『彼女』は言ってましたよ」
一騎の回答に『きゃー!愛されてる!』だとか『彼女ベタ惚れじゃない!』だとか『リア充爆発しろ!』だとか、様々な感想でその場か色めき立つ。
そして暫くその話題で盛り上がった後、酔っ払た先輩達の気まぐれは、次のターゲットである別の男子学生の恋バナへと移っていった。
散々冷やかされ囃し立てられるだけ立てられ放置された総士は、気が抜けた瞬間ポロリっとウーロンハイの入ったグラスを手から取り落としかけた……が、一騎がすかさずキャッチする。
「セーフ、零さなくてよかった」
「………………なあ、一騎」
「何?」
「その『彼女』とやらの言葉に対して、僕も伝えたい事があるんだが」
「じゃあ、さっさと抜け出すか?」
「いや、…お前が剥いてくれたこの枝豆を食べてからにする」
「うん、分かった」
ヒソヒソと小声のやり取りから滲む甘さに、誰も気付きはしない。
そう、総士は『恋人』とは言ったが『彼女』とは一言も言っていない。
そんな『彼女』、正しくは皆城総士の『恋人』こと真壁一騎は、アルコールのせいでは無いであろう総士の赤みを帯びた横顔を見て、「ああ、やっぱり好きだな」っと思わずにはいられなかった。
END
微妙な19のお題様より、03