ルドガー×学パロ
次の講義はB教室だ。
一度ロッカーに寄ってから迷いそうな敷地内を進む。
入学した当初は地図なしで歩けなかったが、さすがに慣れてしまった。
人の流れに流され逆らい、たどり着いた講義室。
親しい友人たちとは違う時間割だから、今日は一人だ。
真ん中らへんの適当な場所に腰を下ろす。
「隣、いいか?」
そう尋ねて返事より先に席に座ったのは、前年時につまりこの大学に入学して知り合った友人のルドガーだった。
教材とバインダーと筆記具というシンプルな荷物。
自分が足下に置いてあるトートバッグと比べれば随分少ない荷物だが、勉強には十分なものだった。
回って来た出席カードに学籍番号と名前を書く。
それを落とさないようにペンケースで押さえ、講義に意識を向けた。
そこそこ分厚い教科書(という名の専門書)を開き、子守歌の様な教授の説明に耳を傾ける。
その言葉から必要だと思う部分をルーズリーフに書き殴る。
見直して読める自信は半々だが、今は教授の言葉を追うのが精一杯だ。
「なあ」
「……何?」
一応真面目に講義を受けているのだから、邪魔はしないで欲しい。
シャープペンシルを動かしたまま隣の彼に返事する。
消しゴムを使う余裕もなく、取り敢えず二重線で訂正しておいた。
「今日のお昼、一緒にどうだ?」
「特に予定はないから、付き合ってもいいけど……。いいの?」
「何がだ?」
「別にー」
小声でその話を終わらせた。
彼とはごく普通の友人関係であり、そこまで親しくはない。
彼の交友関係なんて勿論知らないし、例えば思いを寄せる相手がいたとして気にしないのだろうか。
それとも、彼女を紹介したい、という理由だろうか。
パキンとシャー芯が勢いよく折れて飛んで行った。
講義に身が入らない。
その理由を隣に座るルドガーの所為にする。
「何だ?」
「え?」
「それだけ見詰められたら気になる」
「いや、その、見詰めるとは違うけど……」
一つの溜め息と一握りの勇気。
親しくなるためのきっかけなんて、どこに転がっているかわからない。
「ねえ、ルドガー」
「ん?」
「お昼ついでに一緒に課題しようよ。午後の講義、同じじゃなかった?」
「ああ」
嬉しそうに笑った彼に釣られて、彼女も笑った。
教授のお怒りを買うのは、もう間もなくのこと。
2016/12/26