エステル×幼馴染
(※捏造在り)
空は青く輝いていて、それに負けないくらいの光を放っているように見える結界魔導器に目を細めた。
本当にいい天気だ。
最高の出かけ日和に頬が緩む。
浮かれているのは誰の目にも鮮やかだっただろう。
緩む頬はいくら叩いても締りない。
嬉しいという感情が体の外へ溢れ出ている。
それもそのはず。
かつては次期皇帝候補で、現在は副帝に身を置く忙しいオヒメサマと二人きりで会おうだなんて無茶も良い所だ。
彼女の側近たちには、何と言ったのだろう。
どうやって説得したのだろう。
危険だと言われても、彼女の剣術はかなりの腕前で大抵のことは上手く躱してみせるだろう。
腕力で説得したとは思わないが、その過程が少しだけ気になった。
約束の地には彼女が先に来ていた。
まるで今走ってきたところだと言わんばかりに息を切らしながら、手を振っている。
『可愛い』と年頃の女性に言うのは、失礼ではないだろうか。
綺麗と評された方が嬉しいだろうけれど、今の彼女は『可愛い』という言葉がぴったりだった。
「お待たせ」
「いえ、わたしも今来たところですから。いつまでも貴方を待たせるわけにはいきません」
「俺としては、一人で待っている君が変な輩に絡まれないか心配だから、待つ側でいたいけどな」
「?」
わからなくても構わないと曖昧に笑い、彼女の手を引き自然とエスコートする。
行きたい所を聞けば、特にないからどこにでもついて行きたいとのこと。
それならば、数週間前に開店した菓子店にでも案内しよう。
そろそろ人の波も落ち着いている頃だろうから。
「エステル」
まだ口に馴染まない彼女のあだ名を呼んでみた。
彼女は目を見開き、ゆっくりと瞬きをした。
驚きが確かな形となってそこに表れていた。
「何だよ」
「いえ。まさか貴方がこの名前を呼んでくれると思わなかったので」
「嫌だったか?」
「嫌と言うわけではないんですけれど……」
はっきりしない彼女の言葉に表情が硬くなった自覚がある。
怖い顔だとほんの少し怯えた様子を見せる彼女の前で深く息を吐き出した。
もっと広い心を持たないと、エステルは彼に対して意見の一つも言えなくなってしまう。
そんな関係は対等ではない。
身分の段階で対等ではないという部分は放っておこう。
「理由、聞いてもいいか?」
「貴方には名前で呼んで欲しいです」
「名前でって……。エステルも名前だろ?」
「……あだ名です」
むくれて見せた彼女を見て、ようやく気づいた。
その意味を知れば、途端に心がふわりと浮かんだ。
飛んで行きそうなくらい軽く。
そのまま温度が徐々に上がって、胸が温かくなった。
「エステリーゼ」
彼女の『名前』をはっきりと口にすれば、嬉しそうに彼女は微笑んだ。
その言葉はいつまでも共にいられる証であればいいのにと願ってしまった。
2016/11/11