エレノア×甘め




聖寮の制服を脱ぎ捨てたのは、数か月前。

似合っていると微笑んでくれた彼女の顔が霞んでいくことに不安を覚え始めた時だった。

運命のように、宿命のように、再会した。

生真面目な巡査官だったエレノアは、災禍の顕主と呼ばれる凶悪な業魔と共にいた。

驚かずにはいられない。

いくつもの溢れそうな質問を投げかけようとした瞬間、それに気づいたエレノアに口を塞がれた。

彼女は下手な笑顔と下手な言い訳を残して、『仲間たち』から離れた。


「久しぶり、だな」

「ええ。あの、その……」


数ヶ月の間に色々とあったのだろう。

彼女は事情を説明しようとしているようだが、言い訳を考えているように見えた。

だから、頭を叩いてやった。


「一体何をするんですか、貴方は!」

「生真面目に馬鹿な頭を使うな。エレノアが選んだ道だろ? 何も知らない俺が簡単に頭ごなしに否定するはずがない」


言いきったものの、不安は胸の奥をかじってくる。

この感情を――理性を噛み千切りにくる。

鍵を閉めるように胸元に手を強く置いた。

そこに存在する誓いを確かめる。

彼女を守りたいと思った。

直ぐ傍にいなくても守れると言い訳して逃げた。

それが今の現実だ。

逃げ出した結果がこれだ。


「エレノア」

「あ、はい」


いつもの彼女。

彼がよく知るエレノアの姿。

『みんな』がよく知るエレノアの姿。


「ヤキモチだよ」

「え?」

「エレノアが俺の知らない顔で笑うから。俺の前では見せない表情を簡単に振り撒くから」

「な、何言ってるんですか! そもそも貴方が……!」


彼女の言葉が空気に溶けてしまった。

それはまた『言い訳』なのだろうか。

結局自分と彼女は違うのだ、何もかも。

溜め息を吐いた。

随分重い空気の塊だった。


「あのっ! 上手く言えないことは認めます。私は、その、この、でも!」


言葉になっていない。

それでも、必死な気持ちだけは伝わってくる。

可愛いと感じたままに彼女の腕を引き、胸に抱き寄せた。

鍛えていると言っても彼女は年頃の女性。

小柄で柔らかい。

抱き心地が良い。

ずっと抱きしめていたいと言えば、彼女は顔を真っ赤にして怒るだろう。

想像してみれば、自然と口元が緩んでいた。

拳一つくらい覚悟してそのままでいると、エレノアは彼の背中に腕を回した。

『抱きしめる』から『抱き合う』に変わった。

それだけで、心臓が馬鹿みたいにはしゃぐ。

もう一歩先、更に先を望んでも許される日だろうか。

今は未だ早いかもしれないと鍵をかける。

もう少しだけ待とう。

……待てるならば。


「私は私の思うように歩いています。貴方に負けないように自分らしく」

「エレノア?」

「私だって、ヤキモチくらい妬きます。だって、貴方は見た目以上に中身が素敵すぎますから」


彼女の微笑みは彼の決意をいとも簡単に壊してみせた。



2016/10/10



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