溶けない、溶かさない
ST☆RISHを特集した歌番組。
彼らの存在も随分大きくなってきた。
学生時代から応援していた身としては感慨深いところがある。
何故こんな親のような目線で見ているのだろうと一人笑ってしまった。
どうせなら一ファンとして見ていたいところがある。
けれど、ファンというには違う感情しか浮かび上がらない。
「遠くなったなぁ……」
こぼれ落ちた独り言は寂し気で今の彼らを祝福していないようで自己嫌悪に陥る。
もちろん、応援している。
妬んだりなんかしていない。
それでも手の届かない存在にありつつ彼らに寂しさは隠しきれない。
今でも彼らは彼女のことを一緒に勉強した仲間だと思ってくれているだろうか。
気持ちが落ち始めたところへチャイムが聞こえた。
『誰か』の訪問。
とっくに気づいている『誰か』の訪問。
それは待ち望んでいた知らせだった。
「おかえりなさい、はちょっと違うかな。お仕事お疲れさま、レンくん」
「ただいま、レディ」
当たり前のように抱き寄せられ、額に優しいキス一つもらった。
最初の頃は突き飛ばす勢いで拒絶していたのに、さすがにもう慣れてしまった。
彼なりの彼女だけへの挨拶。
疲れた、と口にできない彼なりの合図。
彼の背中に手を伸ばし、そっと撫でる。
よく頑張ったねと褒めるように。
もっと甘えていいよと、ちょっと恥ずかしいながらも伝えるために。
「ご飯は?」
「……ごめん。食べてきたんだ」
「私の勘冴えてるかも。今日はレンくん食べてくるって思ってた。だから、用意してない。逆に今からって言われたら困ってたかも」
「君を困らせるのも良かったかもね」
「酷いなぁ、レンくんは」
二人は狭いソファに並んで座る。
リモコンに手を伸ばしたレンの手を遮り、その言葉を放つ。
「お誕生日、おめでとう」
「レディ……!」
大きく見開かれた瞳が柔らかく微笑みに変わる。
優しい表情は彼女が見つけて好きになったもの。
誰にも譲りたくない素敵な顔。
「これ、プレゼント。受け取ってもらえると嬉しいんだけど」
「君から貰えるなら何だって受け取るよ」
オレンジ色の飾りがついたピアス。
安物だし大量生産ものだけど、一生懸命気持ちは込めた。
ずっと輝いていてと、みんなを照らす星でいてほしいと願いを込めて。
誕生日プレゼントはそれで、もちろんバレンタインのチョコレートも用意してある。
カカオ成分の高い苦いチョコレート。
もっと嫌がらせ的なチョコレートを用意しようとしたけれど、さすがに諦めた。
彼が誕生日でなければ、確実に実行していただろう。
彼女とはそういう人物なのだ。
油断してはならない可愛いお姫様、だ。
「レンくん、来年もよろしくね」
「お姫様が望んでくれる限り、傍にいさせて」
甘いキスが今日という日を終わらせていった。
2016/02/14