或は純潔な少女のように
森の声が聞こえる。
姫君の護衛にとディオはアリーシャと一緒にレディレイクを旅立った。
少し離れた場所にある、寂れた小さな村の視察。
という名目で彼女は追い出された。
彼らの真意を知りつつも、アリーシャは凛々しい表情でそれを受け入れた。
涙も弱音も見せない彼女は強いのか、それとも……。
「悪かったな、ディオ」
道程も半分は過ぎたであろうところで彼女は不意に口を開いた。
今までの沈黙を破られ驚いた。
けれど、応えなければならない。
無意識に背筋を伸ばし、口を開く。
「大変失礼ですが、アリーシャ様が謝られるようなことに心当たりがありません」
「……私に付き合わせてしまっただろう? ディオは正式に王の護衛騎士団に入ると聞いていたから、それを……その、邪魔してしまった」
ディオの出世を邪魔した、と彼女は口にした。
そんなもの彼女が気にする必要ない。
ディオが本当に目指しているのは、『アリーシャ殿下』の近衛兵なのだから。
王を守る立場に入れてもらえることは確かに身に余る光栄だと思う。
けれど、彼が手に入れたい称号はそれではない。
それを彼女に伝えたら、どんな顔をさせてしまうのだろう。
困ったように微笑まれるのだろうか。
それとも、もう少し期待させてもらえるような顔が見れるのだろうか。
絶対口に出来ない胸中に鍵をかけ、ディオは笑った。
「殿下が気になさることは何一つありません。すべては私の経験値としてこの身の役に立ちます。今回同行させて頂けたことは、大変光栄に思っております」
嘘ではないから、素直に言葉が飛び出した。
今できる経験はすべて未来の夢に繋げる。
無駄な時間は一秒だってない。
「ディオ」
彼女は弱々しくディオの腕を掴んだ。
迷子が縋るような不安を取り除きたくて、手を重ねる。
こんな何の意味の無い動作にさえ緊張してしまう。
それは、相手が『姫様』だからではなく、アリーシャだからだ。
耳元で鳴り響く轟音に頭を痛めながら、彼女の手には羽に触れる様に優しく。
「アリーシャ様、私が貴方の為にできることは、何かありますか?」
「……いや、大丈夫だ。いきなりすまない」
さっと彼女は距離を取る。
何の関係もない他人だと線を引かれた。
その距離はいつもと何一つ変わらないのに、心が痛んだ。
だからだ。咄嗟に体が動いた。
「っ! ……ディオ!?」
アリーシャの声を、時間を、今独占しているのは自分だと愚かな優越感。
「ディオ、その、私は……」
真っ赤中で動揺させてしまったことは、さすがに反省した。
或は純潔な少女のようにtitle:icy
(2016/12/24)