オンナノコ式計算方法
眩しい太陽がキラキラと海面に反射している。
暑いけれど、気持ちいい。
深呼吸を何度か繰り返す。
灼けた空気が肺を撫でて出て行く。
愛すべき夏の香りに頬が緩んだ。
きっと彼らも同じ気持ちに違いない。
この町が好きで、この空が好きで、この海が好きで……それから、あの子が好き。
気持ちのいい青春地図に笑みが浮かぶ。
これが待ち望んでいた世界だ。
なんて心地よいのだろう。
後はこの景色に彼の姿を加えたい。
ただそれだけ――されどそれだけ、の理由で杏樹は走り出していた。
目的地はやけにはっきりしている。
迷うことなく足を走らせた。
「真琴だ!」
「杏樹? こんなところで何を……」
「やった。何となくここに来れば、真琴に会えるような気がしたの」
大正解だと彼女はブイサインを作った。
会いたいと思ってくれたことを嬉しく思い、真琴は笑った。
とても優しい笑顔だった。
けれど、杏樹は膨れた。
不満だと前面に出されている。
その理由が思い当たらず、真琴は眉尻を下げる。
困ったと顔に描けば、杏樹は盛大な溜め息を吐いた。
「私は『その他大勢の女子』じゃないよ」
「? えと、意味がわからないんだけど……。杏樹は杏樹、で当たり前だと思うけど?」
「今の真琴の顔。私に見せる特別な顔じゃなかった。みんなの『橘真琴』だった。そんなの嫌。我が儘でめんどくさいだろうけど、特別がいい」
彼女の言葉を漸く理解したようで、真琴は頷いた。
そして、笑う。
それは間違いなく彼女が大好きな笑顔だった。
「ねえ真琴、今度一緒に出かけよう?」
「どこへ?」
「どこ……、どこか?」
「決まってないんだ」
「真琴が行きたいところに行きたい。私、真琴のこと大好きだし」
ストレートに愛情を伝えてみれば、彼は顔を赤くした。
真っ直ぐに見れないと言うように顔を背けられてしまった。
「真琴って照れ屋だよね?」
「君がストレートすぎるんだよ」
「そうかな? 確かに思ったことは何でも口にするタイプだと思うけど……」
それが敵を作っているということを彼女はきちんと気づき始めていた。
いつまでも子供ではいられない。
大人になるということは、好き放題言葉を投げつけるということではない。
理不尽でも我慢しなければならないことがある。
きちんと、わかっている。
わかっているつもりだ。
それでも、もう少しだけ素直過ぎる子どもでいたいなんて思ってしまう。
少なくとも、好きな人の前ではもう少しだけ。
「夢を見たの」
「夢?」
「真琴がずっとずっと私の隣にいる夢」
「ずっと、隣……」
「この夢、現実にできるかな?」
そのための努力ならば、何だってするつもりでいた。
勉強だって、性格を変えることだって、何だって。
見えない程度の不安を消すように、真琴は彼女に触れた。
そして、その言葉を紡いだ。
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(2016/04/25)