淡色のおもいあい
爽やかな風が吹いてくる。
当たり前の学校生活に色をつけてくれる。
『楽しい』と口からこぼれ出たことに驚き、唇にそっと手を触れる。
少し荒れている。
買ったばかりのリップクリームをつけた。
潤った唇でその言葉を呟いてみた。
熱が頬に集まったことを嫌でも気づかされた。
簡単には口にできない想い。
それでも、伝えたい気持ち。
もっと簡単に伝える方法があれば教えて欲しい。
『誰か』にそんなことを願った。
***
「遊馬!」
色瀬杏樹の声を耳がしっかり拾った。
こんな風に自分を呼んでくれる彼女の存在に救われていた時期があった。
今だって支えになってくれている。
彼女は知らないだろうけれど。
「今、話大丈夫?」
「もちろん」
「私、この前発売されたアルバムの5曲目が好き。作詞作曲遊馬だよね」
にこりと笑みを向けられ、表情筋が固まった。
多分、今自分は無表情なんだろうな、と遠いところから思う。
「遊馬、聞いてる?」
「あ、ああ。聞いてる聞いてる」
「嘘っぽい。ホントに聞いてるの?」
「勿論。感想聞かせてもらえるの嬉しいし」
そう答えれば彼女はにこりと可愛い笑顔を見せた。
それからどこが好きなのかを並べ始めた。
メロディも歌詞の好きな部分も、それからギャラスタの歌声も、それから、それから。
聞いていて心地よい声が心を揺さぶる言葉を紡ぐ。
ほんの少し勇気を振り絞ってもいいだろうか。
嫌がられたりしないだろうか。
「……君のことを想って作ったんだ」
「え? アンドロメダの子たちじゃなくて?」
「ち、近くにモデルがいる方がイメージ掴みやすいし」
「そうなんだ」
あからさまにがっかりと肩を落とされた。
それはどういう気持ちから来ているものなんだろう。
知りたいと心に急かされる。
けれど、ここで慌ててはいけない。
油断禁物だ。
思い込み禁止。
ゆっくり歩み進めていかなければ。
自分は怜治ではないのだから。
自分は静馬ではないのだから。
自分は自分でしかない。
「遊馬?」
「ああ、何でもない。てかさ、この前……」
下手くそに話をそらす。
それでも彼女は何も言わずに聞いてくれた。
「ねえ。好きだよ、遊馬」
その『好き』はどの意味の好き?
問いかけようとして唇を噛む。
そのココロを聞く勇気はまだない。
だから、曖昧なままで放置する。
逃げている。
「ありがとな」
にこりと普段カメラに向ける作られた笑顔。
それ一つ残して背を向けた。
***
「大好きって意味なのに、何で気づいてくれないんだろ……」
杏樹は肩を落とす。
勇気を振り絞った告白は簡単に撃ち落される。
男子高校生とは、こういうものなのだろうか。
恋バナで盛り上がる女子高校生とは、やはり違うのだろう。
「気づけ、馬鹿」
その背中が大きく見えて、その笑顔が何より眩しくて。
「私、いつから、好きだったんだろ」
まだ暫く届きそうにない恋愛感情に切ない溜め息をこぼした。
淡色のおもいあいtitle:OTOGIUNION
(2016/03/29)