「ここは……」

「お目覚めですか。どこか痛むところはありませんか?」


ぼんやりとした瞳が、レアルをとらえる。


「ずっと眠り続けておられたので心……」


ゆっくりとした瞬きを繰り返すと、リチャードは勢いよく起き上がった。


「アスベルは、アスベルたちは……!」


レアルの両肩を掴み、激しく揺すった。

いつもの彼は、どこにも見えない。


「落ち着いてください、殿下。アスベルって……彼と一緒にいたんですか?」


立ち上がりかけていたリチャードは、ぺたりとベッドの上に座る。

うつむき、小さすぎる声で言葉を紡ぎ始めた。


「約束したんだ。僕は……」


そんな彼の言葉を遮るようにノックが響く。

一瞬の沈黙。

リチャードの視線を受け、レアルが代わりに返事をした。


「どうぞ」

「失礼します」


入ってきた親衛隊の騎士は、リチャードの疑問を解消する情報を持っていた。

彼の友人、アスベルが無事であること。

そして、一人の少女の死を。

ギュッと握られた両手は震えている。

唇を噛んで何かを抑えるリチャードは、今にも泣き出してしまいそうに見えた。


「……殿下」

「大丈夫。大丈夫だ」

「では、私はこれで」


騎士は部屋を出ていった。

彼が目覚めたことにより、他の人間もこの部屋へ来るだろう。

今度の沈黙は随分長いものだった。


「レアル」


すっかり暗くなった室内には、弱すぎる明かりだけ。

薄暗い部屋でリチャードは体内に溜まった息を吐き出すように名前を呼んだ。


「はい」

「僕は、強くならなければならない。僕は、平和な世界を生きていきたい。僕は、やらなければならないことがたくさんある。だから、君の力を借りたい」


真っ直ぐに向けられた瞳。

強い力を宿した瞳。

今まで感じていた嫌悪など、もうどこにもなかった。

ただ純粋に彼の側にいたいと思った。

彼の力になりたいと思った。

彼を守りたいと思った。

そのために必要なら、自分が持つすべてのものを差し出す覚悟もできた。


「ボクはこの命に代えても殿下を守ります。今はまだ弱くても、殿下を守るために強くなってみせます」

「レアル……」

「リチャード様は、ただ前を見ていてください」


ゆっくりと重ねた手。

初めて会ったあの時と同じように。

けれど、あの時とは違う。

二人はようやくお互いの姿を認め、動き出したのだった。



2011/01/09
加筆修正 2013/09/18


 

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