それは突然だった。

いつもと同じ時間に帰宅した俺を迎えたパスカルは、そわそわした様子で切り出した。


「あのね、グレイ。あたし帰るよ」


はじめはよくわからなかった。

彼女が何を言っているのかが理解できず、何度かその言葉を行き来させる。

数秒とも数分とも言えるような曖昧な時間だったが、彼女がここを出ていくのだということがわかった。


「突然だな」

「実は、今日のお昼にお姉ちゃんがここに来たんだよね……」

「フーリエが? 珍しいな。何て言われたんだ?」

「んー……。グレイに甘えるな。グレイの邪魔をするな。とかそんな感じ?」


俺はそれなりにこの生活を楽しんでいたが、フーリエにはそう見えなかったのだろう。

最初の頃は、実際かなり迷惑だったし。


「今、失礼なこと考えた?」

「気のせいだ。で、帰ると」

「うん。切り替えるにはいい機会かなって」


パスカルはフォークに絡めたスパゲティを口に放り込んだ。

昨日までの食事風景とは違う。

何が違うのかと問われれば、多分俺の気持ちだ。


「グレイ、早く食べないと不味くなるよ〜?」

「そうだな」


と言ったものの、食欲はなく、手は動かない。

このまま残すのももったいないから、食べるべきだろうと口に放り込んだ。


「グレイ、もしかして寂しいの?」

「かもな」


ガタンと大きな音をたてて、パスカルは大げさなリアクションをとった。


「どうしたの、グレイ。いつもと違うよ?」

「悪かったな。しょうがないだろ。わりと気に入ってたんだから」

「あたしとラブラブな毎日を過ごすこ……ぐぇ」


つい手が出た。

照れ隠しではないことを宣言したい。


「一人よりは、楽しかったんだよ」

「あたしも! 何かグレイって昔から変わってないよね」

「それはパスカルだろ」


何故か昔話に花が咲き、食事の途中だというのに1時間近く話していた。

思えば、こんな風に話す相手がいなかった。

毎日それなりに充実した日々を送っている。

親しい友人もいるし、真面目な話もバカな話もする相手はたくさんいた。

それでも、だ。


「また来たくなったら、来いよ。パスカルの部屋はそのままにしておくから」

「グレイが寂しがりだから、あたしにいてほしいんでしょ」

「……そういうことにしといてやる」

「むっ……」


パスカルはそのまま唸ってしまった。

表情は何かを企むもので、それが何なのか、わかるようなわかりたくないような気分になった。


「じゃあ、またね」

「ああ、またな」


一人に戻る部屋は、やっぱり寂しかった。



終焉の宣告

アル・フィーネ



2010/12/10
加筆修正 2013/09/18



 

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