今日は昨日よりも冷える。

周囲を凍らすようにも思えるほどの冷たい風に、身震いをした。

早く帰りたい。

パスカルが待つ家を浮かべれば、心が少しあたたかくなった。

誰も迎えてくれない冷たい暗い部屋より、誰かがいる部屋の方がずっと幸せだ。

そう考えると、パスカルと暮らし始めて悪いことばかりではないと気づいた。

いつも素直な言葉を口にしない。

たまには、彼女が喜ぶことをしてもバチは当たらない……。

というより、感謝の気持ちを伝えてもいいか。

早く帰りたいと足を動かしていた俺は、寄り道をすることにした。

数分で買い物を済ませ、今度こそ家に帰る。


「ただい――……」

「グレイー!」


まさか扉を開けた途端抱きつかれる(むしろ体当たりだ)とは思わなかった。

その衝撃でしりもちをついたが、せっかく買ったそれを投げることはなかった。

少し自分をほめたい。


「……パスカル、何があったんだ?」


何とか体を起こし、俺の上に乗っているパスカルに声をかける。

悪い話でないことは、彼女の顔を見ればわかった。


「パスカル?」

「おかえり〜、グレイ」

「ただいま。とりあえず、どけ。重い」

「……お子様だね、グレイは」


やれやれと年上ぶって、パスカルは俺の上から退けた。

『重い』はマズかったか。


「で、どうし……」


パスカルの視線は俺の右手に釘付け。

話は聞こえていないか。


「お土産」

「ありがと! でも、どういうこと?」


今まで何度かお土産(つまりはバナナパイ)をせびられたことはあった。

買ってきたのは、今日が初めて。

少しくらい素直になろうかと思っていたはずなのに、言葉はどこかへ飛んで行った。


「安かったからな」

「何でもいいや。ありがと、グレイ」


早速食べようとした彼女を何とか止めて、家の中へ。

あたたかい部屋はパスカルがいてくれるからだというのが、目に見えてわかった。


「……グレイ?」


気がつけば、もう食べている。

早いな、ホントに。


「ん?」

「食べないの?」

「いや、パスカル見てるだけで胸焼けが」

「グレイ?」


低い声を出され、俺は謝ることにした。

パスカルとケンカをして得になるようなことは何一つない。

今日の俺は少し子どもっぽいのだろうか。

いつもより言葉にトゲが出ているような気がした。


「今夜、一緒に星でも見ない?」

「……そうだな。付き合うか」

「珍しいね」

「何となく、な」


奇跡のように出会えたこと。

今こうして同じ時を過ごしていること。

わりと好きなんだと気づいたから。

言葉にできなかった感謝を心の中で告げた。



ありがとう、パスカル。



星屑の破者

ブレイクシュート



2010/12/01
加筆修正 2013/09/18



 

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