パスカルと一緒に暮らし始めて2週間が過ぎた。
密度の濃い毎日のせいか、実際よりも長く過ごしているような気がした。
彼女に出した条件をパスカルはギリギリのラインでクリアしていた。
3日が限度だと思っていた俺は、小さな感動のようなものを覚えた。
子ども時代、そして最近の彼女を見ても、こんなに頑張るとは思っていなかった。
「ねー、グレイ」
「何だ?」
現在の時刻、正午前。
場所、自宅のリビング。
昼食を終えた俺とパスカルはコーヒーを飲んでいた。
「ここに友達連れて来てもいい?」
「……」
「え? ダメ?」
「別にいいけど、何も面白いことなんて……」
俺の言葉を遮るように、パスカルの反応を遮るように、来客を知らせる鐘が鳴った。
ここに来る人間なんかほとんどいない。
一体誰が……。
疑問符を浮かべながら、玄関へ向かった。
パスカルが嬉しそうについてくるところを見ると、何となく読めた。
「こんにちは」
扉を開けた先にいたのは、予想通りパスカルの『友達』たちだった。
リビングに案内し、お茶を入れる。
お茶うけは彼女たちが持ってきてくれたバナナパイ。
パスカルは『トロピカルヤッホ〜ゥイ』とか叫びながら、喜びをわかりやすく表現していた。
一通りの自己紹介を終え、雑談を楽しむ。
お互いがパスカルを知っているためか、思ったほど気まずさはなかった。
「あの……グレイさんはいつパスカルと結婚するんですか?」
キラキラと瞳に星を宿らせた少女(シェリアだったか?)が、爆弾発言をした。
まるで異世界の言葉のようで、すぐに意味を理解できなかった。
「……どういうところからそんな発想が出たんだ?」
「だって、同棲してるんですよね!!」
「アイツはただの同居人だ」
「家賃とるんだよ。ケチだよねぇ」
「お前のおかげで、やらなきゃならないことが増えたんだから、当然だ」
パスカルはぶーっと子どものように、膨れた。
その頬をつついてやろうかと思ったが、とりあえず思うだけにしておいた。
俺の解答がつまらなかったらしく、不満そうにしている彼女を横目で見てカップを傾けた。
「まあ、グレイはお姉ちゃんの元カレだからね」
一斉に見られた。
そんな風に驚かなくてもいいと思う。
「フーリエさんの……」
言葉にされなくても、話を求めているのがわかる。
あんまり面白いことなんてないのだから、話すつもりはなかった。
世間でいうところの『恋人』とは随分違っていただろうから。
お互い好意を持っていたが、研究者と助手とか家族とかそちらに近かった。
「せっかく素敵な話が聞けると思ったのに……」
「ねえ、アスベル。コイビトの素敵な話ってどんなの?」
「そうだなぁ……。ヒューバートは……」
「知りません。教官にでも聞いたらどうですか」
「オレか?」
「あたしが知ってる話で良かったら提供するよ〜」
大人しくバナナパイを食べていたかと思えばこれだ。
皆がそれぞれ興味を持ってしまっていることが大問題。
「パスカル、何も話さなくていい」
「えー……。しゃべりたいよー。たとえば、グレイがお姉ちゃんの誕生日に……」
「パスカル!!」
慌てて彼女の口を塞ぎ、表へ連れ出した。
口止め料を払うハメになったのが、ここ最近一番の出費だった。
突然の衝撃
サドンインパクト
2010/11/28
加筆修正 2013/09/18
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