仕方なくパスカルの同居を認めたが、俺は彼女に2つの条件を出した。
「……条件?」
「守れなかったら、即出ていってもらうからな」
「グレイ、厳しいね……」
「この20年で学んだんだよ」
俺とパスカルは、幼なじみだ。
共に過ごした時間は20年もないが(10年あるかどうかも怪しい)、何となく。
世界中ウロウロしていたパスカルが、何故ここにたどり着いたのかわからない。
けれど今は聞くつもりがない。
余計なことに首を突っ込めば、俺の平和が乱されると知っているから。
「それで、条件って?」
「毎日、風呂に入ること」
「……」
「あと、部屋を散らかさないこと」
「……」
「返事は?」
子どものような反抗的な態度。
けれどすぐに、ハァと深いため息1つ。
「わかったよ」
「なら、よし」
都合よく余っている部屋が1つある。
物置にしようとしてまだ使っていない新しい部屋。
そこを彼女の部屋にすればいい。
「グレイ」
「何だ?」
「お腹すいた」
「……さっき食べてたよな?」
「あれはオヤツであって、ご飯ではない」
パスカルの口振りからすると、俺に作れと言っているらしい。
確かに、彼女が料理するとは思えないけれど……。
自分も腹が減っていたから、余計なやりとりはしないことにした。
「夕飯ができるまで全部片づけろよ」
「……わかった」
気になる空白を無視して、俺は台所に立った。
簡単なものを2人分作る。
いつもは自分1人分。
不思議な感じがした。
食事を終え、風呂も入った。
普段より遅くなったのは、彼女がいたから。
これから毎日こうだとさすがに疲れるかもしれない。
「俺はもう寝るからな」
「うん。おやすみ」
寝室に入り、そのままベッドへ倒れ込む。
何だか疲れた。
俺はすぐに眠りに落ちた。
ドカンッ。
そんな音だった。
強制的に起こされた俺は、辺りを見回す。
家の裏……か?
破壊音を無視して眠れない。
だいたいのことは想像できたが、俺は上着を羽織って音の発生源へ向かった。
「……」
「グレイ、まだ早いよ? ゆっくり休めば?」
へへへと笑ったパスカルは、俺を気にすることなく作業を続けている。
この様子だと火の輝石か……。
幸い、家には傷1つついていない。
パスカルなら、そういうものをすべて計算してやっているのだろう。
安全が保障されたところで、安眠は保障できない。
「パスカル」
ニコリと笑えば、彼女はわかりやすく動揺した。
窺うように、見つめてくる。
悪いが、ここを見逃すほど甘くはない。
今後のために、俺は条件を追加した。
「夜中の実験禁止!」
夜鷹の爪跡
ホークネイル
2010/11/16
加筆修正 2013/09/18
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