ゆっくりと昇る太陽が新しい一日を目覚めさせる。

しっかり眠ったはずだったが、眠りが浅かったのかいつもより随分早い時間に目覚めてしまった。

眠気は残っているが、それよりも緊張が勝っている。


「ついに始まるんだ」


ウィンドルの騎士たちを完全に敵に回した戦いが始まる。

共に学んだ仲間たちと命のやりとりをしなければならないかもしれない。

それはもちろん怖くて、嫌で、それでもウィンドルの未来のためには避けられないものだった。

鏡に映る自分は随分酷い顔をしている。

フィーネは頬をぷにっと引っ張り、それから無理矢理に笑顔を作って見せた。


「がんばれるよ、私は」


鏡の中の自分に言い聞かせ、フィーネは身支度を整えた。





***


広場に集められたたくさんの兵。

その兵士の前に立つリチャードはやはり纏うオーラが違う。

その存在感は眩しすぎる。

フィーネやアスベルたちはかなり後方に立ち、側にいるソフィは何か落ち込んだ様子でうつむいていた。

彼女の様子は気になるが、人の心配をできるほど今のフィーネに余裕はない。

後できちんと話をしようと決意し、顔を上げた。


「勇敢なる兵士諸君!」


それは始まりを呼ぶ声。

促されたリチャードは前に出て彼の思いを述べる。


「これはウィンドル王国を我々の手に取り戻す正義のための戦いだ。兵士諸君の奮闘を期待する!」


さっと剣を抜き、掲げる。

光を反射する眩しすぎる刃にフィーネはそっと目を細めた。


「剣と風の導きを!」

『剣と風の導きを!』

「全軍、出撃!」

『おおーーー!』


木霊する声。

その声を合図に兵士たちは歩き始めた。

足並みを揃える兵士たちを見送り、フィーネたちはリチャードと合流する。


「それでは僕たちも潜入任務を開始しよう」

「殿下の事をくれぐれも頼むぞ、アスベル・ラント。フィーネ・ヴェイン」


二人は左手を胸に当てる。


「はっ! かしこまりました!」

「お任せください!」


二人の返事を聞いたデールは厳しい表情を一瞬和らげ、頷いた。

グレルサイド街道を来た時とは違う感覚で歩く。

アスベルとリチャードのやりとりを微笑ましく眺めながら。


「ソフィ」

「何、フィーネ」


そっと手を差し出してみる。

彼女はその手を凝視しただけ。


「ほら」


手を貸してと告げ、ソフィの手を握る。

フィーネの行動の意味がわからないのだろう。

ソフィはこてんと頭を横に倒した。


「ちょっと不安になったから。こうしてると安心できるでしょ?」

「安心……? ……うん」


ソフィが微笑んだ時だった。

パスカルの叫び声がフィーネの、いやその場にいる全員の耳を貫いた。


「ズルいよ、フィーネ! あたしはソフィに触らせてもらえないのにっ!!」

「パスカルはダメ」

「ソフィ、何で〜!!」


緊張感とは程遠い空気が今は彼らを包み込んでいた。

五人は何とかウォールブリッジ地下遺跡に到着した。

この遺跡から上に出る場所を探す。

勝手を知るパスカルを先頭に歩いた。


「ここだよ。ここからウォールブリッジの中に入れるんだよ」


パスカルが足を止めそう言うとリチャードが一歩前に出た。

緊張の面持ちで、けれど覚悟を決めた顔で彼は言葉を発する。


「ウォールブリッジは南と北に分かれていて、それぞれが別々に動く橋になっている。僕たちが最終的に目指すのは南側の橋をおろして、かつ門を開ける事だ。その際、南側の橋だけでなく北の橋を上げてしまえば叔父方の増援を断つ事もできる。できれば両方の橋を僕たちの手で動かしたい」


全員頷くのを確認してから、リチャードは言葉を続けた。


「ウォールブリッジに潜入したら、まずは北橋を上げよう。叔父方の戦力を少しでも減らしてそれから南橋を下ろす方が効率がいいと思う。説明は以上だよ」


大丈夫かと問うリチャードにフィーネは右手が軽く震えている現実を抑え頷いた。

怖くない。

不安なんかじゃない。

大丈夫。

そんな言葉を何度も何度も心の中で繰り返した。


「それじゃパスカルさん。動かすのをお願いしていいかな?」

「了解〜。こんなのパカパカポコってやれば楽勝だよ」


ニコニコと太陽のような顔で任せてと笑うパスカルは簡単に操作して見せた。

来た時と同じように、一瞬で景色が変わる。

今フィーネたちがいるのは建物の中――ウォールブリッジの中だった。

待ち伏せされていたらと警戒し武器を構えたが、人の気配は感じられなかった。


「叔父の軍勢のただ中だよ」


淡々としたリチャードの声音がギュッとフィーネの心臓を掴む。

これは演習ではない。

失敗は許されない。

極度の緊張状態の中でもフィーネは決めたのだ。

リチャードについて行くと。


「まずは北橋を上下させる装置の所を目指すとしよう」


うん、と頷いた。

頷いたのはいいが、その装置はどこにあるのだろう。

フィーネの不安を感じ取ったのか、リチャードは大丈夫だよと言わんばかりに微笑んだ。

彼女たちはリチャードを先頭に歩く。

砦の役割を果たす橋。

まるで迷路のような場所を行き来する。

たどり着いたその部屋にあったレバーを動かすと、北橋が動いたみたいだった。


「ここまでは予定通りだな。次はいよいよ南橋のほうか」


リチャードは深く頷いた。

今のところ順調にことは進んでいる。

順調だからこそ油断してはならない。


「南橋を下ろして南門を開けるんだ。行こう。南門を開ける部屋に入るための鍵が、中心部の中央塔にある。まずはそこへ向かおう」

「中央塔、ですね。わかりました」



2013/10/29


 

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