パスカルはニコッと邪気など微塵もない笑顔で答えた。


「ズバリ! あたしの目的はソフィと仲良しになる事だよ〜ん」


時の流れが止まったような気がした。

いや、この空間だけ世界から切り離されたような気がした。

いつでも戦えるようにと戦闘体勢に入っていたことが恥ずかしい。

多分、ここにいる誰もが彼女の言葉を理解できなかっただろう。

代表でアスベルが声を上げる。


「……はぁ!?」

「ソフィの事もっと知りたいし、調べたいし、触りたいの! 悪いけど、あんたらに興味はないですよ」


ソフィは身の危険を感じて、慌てて隠れた。

アスベルとリチャード、そしてフィーネは顔を見合わせる。

どう動いていいのか、何を口にすればいいのか、今はまったく頭が働かなかった。


「アスベルと……え〜と、なんだっけ〜」

「リチャードだよ」

「フィーネ・ヴェイン」


パスカルの視線を受けて名乗る。

パスカルはうんうん、と大げさに頷いた。


「ん、リチャードとフィーネね。ねぇソフィ〜、あたしとアスベルとリチャードとフィーネ、誰が一番好き?」

「……アスベル」


ソフィは一瞬間を開けたものの、迷うことなく彼の名前を出した。

予想通り、といったところか。

彼以外の名前だったら、かなり驚いたに違いない。


「むぉ〜! くやしい〜! 仲良くなりたい〜。ソフィと仲良くなりたいよ〜」


幼子のようなパスカルの様子を見ていれば、何だか微笑ましくなってしまう。

フィーネは自然と笑っていた。

それはリチャードも同じで、柔らかい表情で話し出す。


「この人は……悪い人ではない気がするよ。一緒に行っても平気じゃないかな」

「……そうだな。もうしばらくこのまま行こうか」

「ありがと〜。やっぱり旅は道連れって言うしね!」

「それじゃ、グレルサイドへ向かおうか」


フィーネたちは目指すべき目的地に向かい、足を進める。

グレルサイド街道をゆっくり歩く。

時折魔物の姿を見かけるが、そう好戦的なものではない。

戦うことにはあまりならなかった。

アスベルが先頭に歩き、フィーネはリチャードの側を歩く。

気のせいだろうか。

隣を歩くリチャードの動きがぎこちない。

声をかけようとした時、突然リチャードがしゃがみこんだ。

倒れたのかと焦ったが、そうではないようだ。

安心するのはまだ早い。

皆の足が止まり、アスベルがすぐに駆け寄った。


「リチャード、大丈夫か?」

「ああ……平気だよ」


彼の顔色を見ると、とてもじゃないが平気だとは思えない。

呼吸も荒く、すぐに医者に診てもらった方がいいのではないかと思う。

けれど、こんな街道の真ん中に医者などいるはずがない。

一番良い方法は、少し休んで落ち着いてからグレルサイドへ急ぐ、だろう。

いくらかの言葉を交わす彼らの側を通り、ソフィはリチャードに近づいた。

迷うような仕草の後で触れようとすると、リチャードはその手を払った。


「よせっ!」


大きな声だった。

全員が目を見開き、視線がリチャードとソフィの間を行き来した。

言葉をなくしてしまったフィーネの代わりではないだろうが、恐る恐ると言った様子でアスベルが彼の名前を呼んだ。

呼ばれた本人も自身の行動に驚いていたのだろう。


「……あ、ああ、すまない。急だったので、つい……」


気まずいといった雰囲気を隠すことなく、リチャードは呟くようにそう言った。

重く淀んだ空気を振り払うようにパスカルは明るい声を出す。

大げさとも言えるほどだったが、さすがの彼女でもこの空気を振り払うことは叶わなかった。

リチャードは心配の眼差しを向けるアスベルと驚かせてしまったソフィに謝った。

その言葉を受けたソフィは不安げに「友達」かと問う。

彼女の問いにリチャードは微笑んで答えた。

迷うことなく真っ直ぐ「友達」であると。

ソフィの様子が少しおかしい。

気のせいか彼女の表情は、今にも泣き出してしまいそうなものに見えた。

リチャードがそんなソフィに気づいているのかどうかわからない。

止まった足を動かし、先を急ぐことを優先した。

しばらく歩いていくと、グレルサイドが見えてきた。

バロニアほどではないが、大きな町だ。

その町の入り口に二人兵士が立っていた。

その空気はピリピリと張り詰めていて、歩み寄ることをわずかに躊躇った。


「今は非常事態につき、許可なき者を街へ入れる事はできぬ」


事情を説明しようとすると、もう一人の兵士がリチャードに気づいた。

兵士は公爵に知らせると慌てて走って行った。

パスカルはリチャードに気づいていなかったらしく、簡単な感想を漏らす。

フィーネがリチャードと対面した時とは随分異なる反応だった。


「リチャードは王子……。なら、アスベルは何?」

「俺は……今の俺は……何者なんだろうな……」

「ライバル、だよ。私の」

「フィーネ……」


思い詰めた表情を見せた彼を庇ったつもりはない。

本音でしかない。

フィーネはまだ剣でアスベルに勝つことを諦めてなどいない。

そんな話をしていると、兵士は戻ってきた。


「お待たせしました。どうぞお通りくださいませ!」

「ありがとう」


まずはグレルサイドを治めるデールに会って状況を確認するため、彼の屋敷を訪ねることにした。

 

top
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -