小さな音を立て、ソフィそっくりな少女の姿が映し出される。

顔も髪型も服装も何もかもが同じで、鏡でも見ているような気分だった。

アスベルとソフィは驚きのあまり、パチパチと瞬きを繰り返すだけ。

フィーネも興味津々な様子で、視線は幻とソフィの間を何度も行き来していた。


「これがパスカルさんの言っていたソフィの幻なのかい?」


リチャードがそう問いかければ、パスカルは頷く。

幻……と呟きながら、フィーネは一歩映し出されたソフィに近づいた。

アスベルは先ほどのフィーネのようにソフィと幻を見比べる。


「確かに……ソフィとよく似ている……」


似ているというレベルではない気がする。

本人としか思えない。

幻というだけあって、ソフィ似の少女には触れなかった。

わかっていたけれど、実際に確かめたかった。

宙を切った手を眺める。


「ね? 本物そっくりでしょ。あたしがソフィを見て思わず触っちゃったのも頷けるでしょ?」


パスカルがまた触ろうとしたため、ソフィは慌ててアスベルの背中に隠れた。

あからさまなその態度にパスカルはがっくり肩を落とす。

ソフィの幻を映し出した装置も、どうやら大昔にアンマルチア族が作ったものらしい。

これはまだ調べている途中だとパスカルは言う。

青い色の光がピリピリと走り、幻は消えた。

その痕跡を消すかのように煙が立ち上る。

そして、また稲光のような細い光が走った。


「ソフィ、今の幻を見て何か思い出したりしたか?」


アスベルが問いかけるとソフィは頭を横に振る形で否定する。


「駄目か……」

「ねえ、アスベル」

「ん?」

「今のどういう意味?」


フィーネはソフィのことをよく知らない。

アスベルとの関係も。

尋ねていいことなのかは少し迷ったが、知りたかった。


「ソフィは……」


アスベルはフィーネから視線を逸らす。

不安定に揺れるアスベルの瞳は、ソフィを捕らえた。

向けられた視線にソフィは首を傾げる。

長いツインテールがふわりと揺れた。


「フィーネ、また今度話す」

「そう」


除け者、と感じたわけではない。

ただ、力になれることがあるのなら協力したかった。

落ち込んだわけではないのだが、フィーネを心配したソフィが彼女の手をそっと握った。


「ソフィ?」

「あのね、フィーネ。元気……出してね?」

「ありがとう」


ソフィの事情はわからないけれど、決して軽いものではないだろう。

それなのに、こうして心配してくれる。

今はそれだけで十分な気がした。

話を進める。

ただ幻が映っただけでは、彼女とその幻との関係性は見出だせなかった。

パスカルの言う通り説明書のようなものがあれば、少しは何かわかっただろう。


「ここんとこに書かれてる文字も消えちゃっててほとんど読めないんだよね。かろうじてわかるのが……ラ……ムダ……って書かれてるところだけど……その先が……」

「ラムダ……? どういう意味だ?」


アスベルが答えを求めてパスカルに問うが、彼女はお手上げだと言うように手を振った。


「ラ……ムダ……。昔、どこかで……聞いた事があるような……」


ソフィが自身の記憶を辿るようにうつむいた。

フィーネも一応考えてみるが、残念ながら何もわからなかった。

初めて聞く言葉だった。


「ラムダ……。パスカル、他にも何かわからないのか?」

「ん〜今の所はそれだけだね」

「とりあえず今は先へ進もう。ここでこうして考えていても、すぐに答えは出ないだろう」


そう促され、五人は先へ進むことにした。

入り口にあったのと同じような装置に乗ると、地上へ辿りついた。


「どうやら無事に対岸へ渡れたようだ」


アスベルがウォールブリッジへと視線を向けた。

疑っていたわけではないが、本当に反対側に渡ることができた。

この幸運に感謝しなければならない。

これで目的地であるグレルサイドへ向かうことができる。

リチャードがその単語を出せば、パスカルは何故か瞳を輝かせた。


「あたしも一緒にグレルサイドに行こうかな〜」


軽く言った言葉だったが、アスベルとリチャードは顔を見合わせた。

一瞬、時が止まったかのような錯覚。


「よからぬ目的があってついてこようとしているんじゃないだろうな?」

「くくくく……ばれたか……」


アスベルがそう言えば、パスカルはわかりやすい悪人のような笑い方をしてみせた。

一瞬のうちに緊張が走り、見ている間に空気が変わった。


「お前……!?」


アスベルが剣を抜こうと手をかけ、それにつられるようにフィーネも身構える。

ソフィとリチャードも状況を見守るように息を飲んだ。

 

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