パスカルに倣って、初めて見る装置に足を乗せれば、瞬きする間に景色が変わっていた。
一瞬で遺跡の中へ移動したらしい。
不思議な装置だ。
「僕たちは全然動かなかったのに、どうやって別の場所に移動したんだい?」
「別に大した事はしてないよ。チャカチャカポンってやっただけ」
アスベルも言ったが、パスカルのその説明ではまったく理解できなかった。
多分、理解しようとするのが間違っているのかもしれない。
「ね、ね、凄いでしょ! 地面の下にこーんな広い所があるんだよ。驚きだよね!」
改めて辺りを見渡せば、広さだけではなく今まで目にしたことのない雰囲気にフィーネは、子どものような好奇心を抱く。
親に内緒で家の近所を探検していた幼い頃に抱いた、ドキドキワクワクに似ていた。
心惹かれる空間だった。
遺跡と言われた時に思い浮かべていたイメージとは随分違うけれど。
違うからこそ惹かれたのだろうか。
この遺跡を作ったのは大昔の『アンマルチア族』らしい。
聞き慣れない言葉だった。
アスベルもそうだったようで、疑問符をつけてその言葉を繰り返す。
『アンマルチア族』というのは、世界各地に残っている遺跡を作った種族のことらしい。
知らなかったとフィーネは呟く。
勉強不足かとも思ったが、知らなかったのは彼女だけではなかったのだから今はさらりと流すことにした。
「もしかしてパスカルさんは考古学者なのかな?」
「ん〜、ま〜そんなとこかもね」
『そんなとこ』という言葉を聞く限り、どうやら考古学者ではないらしい。
彼女の肩書きが何であろうと今は関係ない。
お礼に触らせてとソフィに近づくパスカルと、彼女から逃げようとアスベルを盾にするソフィ。
微笑ましい図だ。
「仲間に入りたいと思ってる?」
「まさか。微笑ましいなと眺めていただけですよ?」
そう答えれば、リチャードは肩を竦めた。
「ほら、もういいでしょ」
「そうだな。先へ行くぞ」
五人は遺跡内部を更に奥へと進んだ。
遺跡自体も見慣れたものではないせいか、移動手段も想像の遥か先をいく。
これらの仕掛けは一体どうなっているのだろう。
パスカルに質問してみたい気もしたが、よくわからない擬音で答えられそうだったため諦めた。
一人でいれば、いやアスベル達といようが、パスカルが一緒でなければ確実に迷子になっていただろう。
先に進むために、数人乗るだけで精一杯なブロックで上や下へと移動する。
後ろを振り向けば、自分が今どこから来たのかわからなくなった。
元々方向音痴なフィーネだから、わかるはずもない。
何も考えずに案内役のパスカルについていくのが一番だろう。
どれだけ進んだのかわからないが、ようやくパスカルがその言葉を口にした。
「あった〜! これこれ! これが幻を映す装置だよ」
アスベルとリチャードがそれに歩み寄る。
フィーネも近づこうとしたその時、ソフィが辺りを見回していることに気づいた。
「ソフィ、どうしたの?」
「何かがこっちに近づいてくる。変な足音が……聞こえる」
「変な足お……っ!?」
目の前に現れた魔物。
遺跡を守る魔物……というものでもないだろう。
それぞれ戦闘体勢をとる中、フィーネは若干ダルそうに剣を構えた。
「行くぞ、フィーネ」
「何で?」
「……フィーネ」
アスベルのわざとらしいため息がよく聞こえる。
確かにフィーネは前衛だが、アスベルにそう声をかけられるのは納得できなかった。
「来るよ!」
「二人とも危ない!」
パスカルとソフィの声で顔を向けると、アスベルとフィーネは同じタイミングで地面を蹴り攻撃を避けた。
そしてその勢いのまま斬りかかる。
人間との生死をかけた戦いには慣れていないが、魔物相手なら何度も訓練したことがある。
魔物の種類によって弱点があることも学んでいた。
戦い方のパターンもいくつか実戦で経験している。
「サポートお願い!」
誰に、ということなくフィーネが叫ぶ。
「「わかった」」
返事をしたのはリチャードとパスカル。
それを信じてフィーネは一歩踏み出した。
アスベルとソフィの動きを見ながら、自分の剣をしっかり握る。
周りをきちんと見るように、それは何度か注意されたことだった。
今実戦でこのように役立つわけだから、自身を導いてくれた教官に感謝しなければならない。
「アスベル! ソフィ!」
「わかった」
「うん!」
パスカルとリチャードの術により、完全に足止めされた魔物へトドメを刺す。
三人で一斉に攻撃すれば、魔物は耳障りな断末魔を上げ動かなくなった。
「やれやれ……とんだ邪魔が入ったな」
そう言ったアスベルの表情に安堵の色が見えた。
彼はそのまま緑色をした石板のようなものに近づく。
「この装置はどうやれば動く?」
「簡単だよ。横のところにあるのをパカパカやって、最後に大きいのをピコってやればいいの」
フィーネは思った。
別にアスベルがしなくても、パスカルに頼めばいいのにと。
パスカルの説明を聞く限り、フィーネが理解できないからそう思ったのかもしれない。
実際、アスベルは上手く装置を起動させられなかった。
警報のような音を聞けば、間違った操作をしたことなんてバレバレで、結局パスカルに頼ることになった。
「しょ〜がないね。あたしが模範を見せますか」
二人は位置を変わる。
パスカルが迷うことなく軽やかにボタンを触ると、目の前の『それ』が動き出した。
固まって一つの形になっていたものがバラバラになった。
「動いた……」
信じていなかったわけではないだろうが、リチャードの言葉には確かな驚きが含まれている。
全員が装置を操作したパスカルに近づいた。
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