「ソフィ!?」
アスベルの声が土煙の中を漂う。
視界が遮られるソレにフィーネは咳き込んだ。
「どうした!? 何があった!?」
アスベルがソフィの元へ駆けつけると、彼女はその背中に隠れた。
何かに怯えている様子だが、一体何があったのだろう。
「あの人が……触った」
「……えっ?」
アスベルとリチャード、そしてフィーネはソフィを見た。
あの人、が一体誰を指すのか。
まさか、リチャードを狙う者が潜んでいたのだろうか。
それとも……。
辺りを覆っていた土煙が消え、その中から女性が現れた。
初めて見る風貌の女性だった。
彼女は何やら呟いている。
その声は聞き取れない。
女性は何かを確認するように手を動かした。
「もう一回! お願い! もう一回触らせて〜」
彼女は腕をグルグル回しながら走ってくる。
フィーネと同じ年頃に見えるが、仕草がやけに子どもっぽい。
無邪気にフィーネ達の前に来た女性をアスベルは警戒し、一歩前に出て剣を構えようとした。
フィーネの目には怪しい人物に見えない。
けれど、事情が事情だから警戒せざるを得ないのだろう。
天使の仮面をかぶった悪魔なんて、この世界にはたくさんいるのだから。
「何者だ!?」
「あたし? パスカル! よろしく〜」
ウィンクを1つして、彼女は両手を広げる。
友好的なパスカルという女性に対し、未だに警戒を緩めない。
「……ソフィに何をする気だ!」
アスベルにとって、ソフィという人物はやはり大切な人なのだろう。
フィーネはふと思う。
自分にはこんな風にかばったりしてくれる人はいるのかと。
浮かんだのは、寂しすぎる答えだったから頭を振って思考の外へ追い出した。
「いや〜、まさか本物に会えるなんて思わなくてさ。ついはしゃいじゃった」
軽く謝るような調子で彼女はそう言った。
本物に会えると言ったが、どういう意味なのだろう。
ソフィは有名人だったのか。
その疑問はすぐに解消される。
「ほんのついさっきその子の幻を見たんだよね」
彼女はまたウィンクした。
ソフィの幻、それはどういう意味なのだろう。
言葉通りだとしても不可解だ。
フィーネと同じ気持ちなのか、アスベルとリチャードは視線を交わした。
そして、アスベルはその意味を訊いた。
その答えとして彼女は『実際に見た方が早い』と言った。
よくわからないが、フィーネたちもソフィの幻を見ることが可能らしい。
パスカルが指差した方へと移動すると、そこにあったのは初めて目にするものだった。
何と表現するのが一番正しいのだろう。
「これは……?」
「これを使うと、地下にある遺跡に行けるんだけどね。幻があるのはそこ」
「地下にある遺跡?」
「遺跡だって……?」
この辺りに遺跡があるという話は聞いたことがない。
つい最近発掘されたりしたのだろうか。
それにしても、そんな情報は聞いたことがなかった。
「結果的に塞がってる橋を通らずに反対側にも来られたしね」
パスカルが口にした言葉に全員が反応した。
ウォールブリッジをどう攻略しようかと悩んでいた彼らにとって、それはとても魅力的な言葉だ。
だが安心するのはまだ早い。
その遺跡の内部に調査員、もしくは警備の人間がたくさんいる可能性だってある。
それに、これが罠の可能性だってないとは言いきれない。
アスベルとリチャードは顔見合わせ、それを訊いた。
彼女の答えによると、パスカル以外にどうやら人はいないらしい。
フィーネは行き先が決まったなと息を吐く。
そんな彼女の前でリチャードとアスベルは相談する。
相談、というよりは確認か。
「決心ついた? そんじゃ、ひとつみんなで潜るとしますか」
「……一緒に行くのか?」
歓迎しているとは言いにくいアスベルの言葉を気にすることなくパスカルは頷いた。
「パスカルさんに遺跡の中を案内してもらうと言う事でいいのかな?」
「もちろん」
「……そうだな。わかった。一緒に行こう」
四人はパスカルをメンバーに加え、ウォールブリッジの地下にあるという遺跡へと足を踏み入れた。
← →
←top