アスベルを先頭に三人はゆっくり歩く。

時折襲ってくる魔物――バットやらラットゴーストやらを軽く薙ぎ払いながら。


「ねぇ、アス……」

「しっ!!」

「……何?」


声を潜めて、アスベルに近づく。

ソフィも同じように。


「誰かいる」

「誰か?」


アスベルの視線の先を追う。

そこには、座り込んでいるように見える人物がいた。

この暗さも手伝ってはっきり見えないが、金髪の青年のようだ。


「あれは……!」


駆け寄るアスベルにソフィとフィーネも続いた。


「リチャード!?」

「え? 殿下!?」


先ほど亡くなったと知らされたばかりの彼なのだろうか。

フィーネはリチャードをこんなに近い距離で見たことがない。

遠目でしか見たことがなかったから、嘘のような夢のような感覚で彼を見つめた。

三人の視線を受けながらも、うつむいたままの状態で顔を上げない。

どこか怪我をしたのか、それとも……。

奇妙な不安が胸の辺りを刺した。


「リチャード……! しっかりするんだ!」


何度かアスベルが声をかけると、彼はようやく顔を上げる。

確かに、ウィンドルの王子・リチャードだった。


「君は……」


不可解な様子で尋ねるリチャードに、アスベルは名乗る。

その名前を聞くと、リチャードは表情を変えた。

フィーネの位置から見ても分かる。

ぼんやりとした瞳が、現実を捉えたように光を宿す。

希望を見つけたように。

そこには、信頼や安心や様々な感情を含まれていた。


「お前が死んだと聞かされて驚いたんだぞ」

「僕が……死んだ……」


今まで友人のように接していたアスベルが、慌てて態度を改める。



(まったく、アスベルは……)



呆れたとフィーネは肩を竦めた。

その口調は彼らしくなく、失礼だとわかっていながら笑ってしまいそうになった。


「フィーネ?」

「な、何でもない……から……」


キョトンとしたソフィに、誤魔化すための笑みは通用しただろうか。

コトンと倒された頭に手を乗せる。

そのまま彼女の頭を撫でたのだが、失礼だったかもしれないと後で反省した。

フィーネとソフィの会話の側で、二人も一通り話をしたらしい。

アスベルの肩を借りてリチャードが立ち上がった。

そこへ現れた人物。


「やはり生きていましたか。リチャード殿下」


フィーネは咄嗟に二人をかばうように前に出た。

目の前には、兵士が二人。

大人数でなく助かった。

おそらく手分けしてリチャードを探していたのが、幸いだったと言うべきか。


「……セルディクの手の者たちか」


剣を構えた彼らを前に、フィーネたちも戦闘態勢をとる。

それは、現状を何とかしようという考えなどではなく、条件反射のようなものだった。

斬りかかってくる兵士に、アスベルは剣を抜いた。

そして、フィーネの前に出た。


「そうはさせない!」


訓練と実践は違う。

それを今痛感していた。

魔物との戦闘ならば、数えきれないくらい経験した。

人と、殺し合うような戦いをしたことは、そうない。

迷いはフィーネの剣を鈍らせた。


「フィーネ!」


弾かれた刃。

手首が痺れる。

降り下ろされた剣を後ろへ飛ぶことで、回避した。

自分の甘さに吐き気がする。


「フィーネ、大丈夫!?」

「ありがとう、ソフィ」


リチャードを守るために剣を握り戦うアスベルは、立派な騎士に見えた。

こういうところが彼に勝てない要因なのだろう。



(悔しい……)



生まれた感情を素直に受け入れる。

強くなりたいと今心の底から願った。

フィーネは地面に落ちている剣を拾い、鞘に収める。

気を失った兵士から武器を取り上げ、手足を縛った。

三人は下がっていたリチャードへと顔を向けた。

 

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