◎途中まで
名字名前は幸せになりたかった。
しかし、幸せとは何か。ピトーやプフやユピーとはなんだかんだでうまくやっていけていたし、楽しかった。ラストやエンヴィーやグリードやラースといった仲間と連んでいたのも楽しかったし、マスタングやリザ、ヒューズといった同僚と過ごしていた日々も悪くなかった。幸せ、だったのだろう。
人間という形では、なくなってしまっていたけれど。
しかし、その幸せの日々には常にたくさんの人の不幸が存在していた。その後味の悪さは嫌いで仕方なかった。ヒューズが死んだときにそれが明確化され、私は幸せではなくなったのだ。
「――名前ってあんなに怒ることあるんだなァ」
ナルトがそう言ったのは、第七班がカカシの試験に合格したあとのことであった。名前だけは縛られたナルトを解放したあとにどこかへ消えてしまったが。
その言葉に、カカシもウンウンと頷いた。
「吃驚しちゃったヨ」
「‥あの体術、並じゃなかった」
「油断してたのもあるけど、あの体術は確かに、ついこの間までアカデミー生だったとは思えない出来だったネ」
「えー! でもォ、名前はアカデミーのときは目立たなかったわよ? フツーの良い子って感じで」
問題はそこだった。アカデミー時代の名前は可もなく不可もなく、といったきわめて平均的な生徒だったとカカシは聞いていた。
しかし、演習での名前は激昂し、カカシの知らない術を使い、カカシを上回る体術を見せ、鈴を見事手中に収めた。ただの下忍にそれは不可能。
「ま、とにかく合格したんだからパーッといくってばよ!」
重い空気をナルトが吹き飛ばすかのように明るく言った。それもそうね、とサクラが賛同し、サスケは鼻を鳴らして帰路へ着く。カカシはそんな班員を目を細めて見つめていた。
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「‥短気なのは直さないといけないね」
一人でぽつりと呟く名前に反応する人はいなかった。それをいいことに、独り言は続く。
「怒ってしまったらもう普通が隠せないから、いっそのこと体に負荷をかけるしかないね。問題は、その方法」
イタチさんがまだここにいたら、教えてもらえたのだけど、もういないから。
里抜けした真意は名前の知るところではなかったが、残された立場でありながら名前はサスケとは違い、イタチを恨んではいなかった。周りの人間を殺されていないからだろうか。
そうだ、呪印をかけよう。
唐突にそれを思いついたが、いかんせん、名前には呪印のかけ方なんてわかるはずもなかったので、念能力を使うことにした。《創造主》(ゲームメーカー)とは、名前の持つ本来の念能力であり、以前カカシに使った《伸縮自在の愛》は《創造主》によるものである。この念は、自分の可能性を自在に引き出す能力を持ち、生まれ持っているものなので制約と誓約は不明だが、対象が自分でなければいけないという制限がある。ヒトは可能性に満ちている。そのため、この念はどんな存在にもなれる、とても便利な能力だと名前は自負していた。
mae tsugi
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