ネタ vol.2013 | ナノ

◎軍の狗

 名字名前は観察していた。見晴らしのいい、それでいて自分が隠れるような木の上に登ってはたけカカシとうちはサスケの戦いを眺めていた。

「隙は、見当たらないな」

 ――演習の内容は鈴取り合戦だった。
 三つの鈴を四人で取り合うという何とも残酷な演習内容に、名前は「ふざけている」と憤ったが、それを顔に出さないで、「作戦会議の時間はいただけませんか?」と言った。しかし、脱落する一人が自分かもしれないという余裕の無さから、それに賛成してくれる人は現れなかった。

 そして仕方なく個人で情報収集をしている、というわけなのだが。

「名前は、来ないのかナ?」

 ‥残念ながら、うちは君と戦わせてみても、カカシ先生の力量を推し量ることは出来なかった。勝率は上げておくに越したことはないのだが、なるようになれ、だ。
 私はおとなしく木の上から降りた。

「‥自分には忍にならなければいけない理由があります」
「‥? なら、取りに来なさいよ」
「しかし、仲間を蹴落としてまでそれを叶えるつもりはありません。他人の犠牲の上に成り立つ幸せは、私の夢ではないのです」
「‥忍に、なれなくてもいいって言うの?」
「いいえ。

――みんなで忍になります」

 私は大雑把な性格で、クナイを投げるのは下手くそだ。しかし、体術においてはイタチさんが目を見張るくらいには秀でていた。つまり、対上忍であろうと立派な武器になり得る。

 起爆札のついたクナイをカカシ先生の左右に投げて、逆にこちらへ向かってきたカカシ先生が私に何かを仕掛ける前に、仕掛けてやる。
 引くどころか一歩前に手をついて、体制を逆さまにしてカカシ先生の顎に蹴りを放った。カカシ先生も今の一瞬で決めるつもりだったのだろうが、意表を突く動きに対応出来なかったのだろう。
 しかし、さすがは上忍。

「変わり身の術でありますか。それならば、

――《伸縮自在な愛》」

 でも、バンジーガムからは逃げられない。速攻勝負とばかりにカカシ先生を引き寄せて、顎を思い切り殴り抜けた。一瞬意識を失った隙に鈴を全部頂くと、ちょうどタイマーが鳴り響いた。



「――名前以外、忍者をやめろ」

 その言葉にいち早く立ち上がったのは、意外にも名前であった。カカシの永遠のライバルを思わせるような体捌きでカカシの胸ぐらを掴み上げると、普段の控えめな言動が嘘かのように、荒々しく怒鳴った。

「納得がいかないなァ! 私はあなたから鈴を取った! 全部! 私は言ったはずだ、はたけカカシ。

――みんなで忍になります、と」

 ギロリとまるで親の仇を見るような目でカカシを睨む名前からは微量の殺気が漏れ出していて、その鋭さにカカシはびくりと体を震わせた。それを見逃すような名前でもなく、それに気付いた瞬間足を払い、カカシを組み敷いた。動じる素振りを見せないまま、カカシは口を開く。

「‥なら、名前の鈴はどうするのさ」
「こうする」

 左手に持っていた鈴を軽く握り、錬金術で分解したあと、四つに再構築する。

「私は幸せになるんだ。そのためには誰かが犠牲になることなんて許さない」
「それが、敵であってもか?」
「ああ、敵も味方も私は大切にしてみせる」
「‥‥‥」

 それがいつか名前の身を滅ぼすぞ、とはカカシは言えなかった。見てしまったからだ。名前の目に、旧友の光を。

「さて、鈴は人数分取ったわけだが、それでも“私たち”は不合格か?」

 胸ぐらから手を離し、カカシの前に堂々と仁王立ちをして言い放つ名前に、起きあがりながらカカシはこう答えた。

「ああ、名前以外は不合格だヨ。どいつもこいつも忍になる資格のない餓鬼ばかり」
「どいつもこいつも足手まとい、何が何でもうちはサスケと合格、これくらい一人で出来なければ火影になんてなれない‥―、と言ったところか?」
「そ。よく分かったね」
「同じ教室で過ごしてきたんだ、分かるに決まっている」

 全ての表情を殺したような顔で、しかし、言っている言葉は自分の胸を擽るようなもので、サスケは眉に皺を寄せた。
 名前はアカデミー時代、あまり自分を出さなかった。常に他人と同調し、にこにこと笑顔を貼り付けていた。しかしイノ、シカマル、チョウジの傍は居心地が良かったらしく、好んで寄っていっていたように思う。そして、何故自分が名前のことをこれだけ見ていたのかと言えば、興味があったからである。最初に彼女を見たときの足運びに、気配の薄さに、匂いの無さに、そして、――その瞳の危うさに。

「しかし、実際、サスケとナルト、サクラは最初のお前の誘いを断った挙げ句鈴も取れなかった」
「しかし、私が取った」
「――この演習の本当の目的を知った奴はとうとういなかったようだな」
「本当の目的?」
「チームワークだ。

四人で来れば、みんなで鈴は取れたかもな」

 カカシの言葉にサクラが人数と鈴の個数を指摘すると、カカシは「当たり前だ」と答えた。最初からそれが目的だった。仲間割れ。不利な状況下でも仲間を優先させる人物を選出したかったのだと。

「鈴を四つにしちゃったのは、驚いたけどね」
「‥それならば、私とて不合格のはずでは?」
「名前は最初、作戦会議をしようと提案したよね? それってつまり、みんなで鈴を取るためだったんじゃないの?」
「‥そんなのどうとでも言える。他の三人はカカシ先生を油断させるための布石で、鈴は私が取りに行くという作戦だと言ったらそれまでじゃないですか。

――カカシ先生は、優しいですね」

 ニンマリと笑いながら言ってみせると、カカシ先生は不快そうに眉を寄せた。


20140713


mae tsugi

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