◎括目せよ
今日はいよいよ待ちに待った演習だ。吐くほど厳しいから朝ご飯は抜くようにと言われていたので、コーヒーだけ飲んできた。そして補給食として兵糧をいくつか鞄に詰めると、私は演習場へ向かった。
「おはよう。早いね、うちは君」
「‥フン、当然だ」
「君は真面目だものね」
近くの木に腰を下ろしながら呟くように言えば、うちは君はギロッと私を睨んだ。何か言っちゃったかな、こわいんだけど。なんてね。
「お前、俺と話したことないが、どうしてそう思う?」
「アカデミーにいたときに君が遅刻していたところを見たことがないし、真面目に授業を受けていたし、修行だってたくさんしていたでしょう? 知っているよ」
「‥イタチに聞いたのか」
「そんな怖い顔しないでよ‥、うちは君」
彼はサスケが今日はこんなに素晴らしかったと報告をしてきたのだが、今それをうちは君に伝えてもあまり良くないだろう。というよりも、下手に刺激をしたくない。
眉を下げて言えば、うちは君は少し黙ったあとに、「サスケでいい」と言った。呼び方だろうか?
「サ、スケ‥?」
「‥フン」
恐る恐る言えば、うちは君は満足したかのように鼻を鳴らしたので、これから私はうちは君をサスケと呼ばなくてはいけなくなってしまったらしい。難儀だ。
そうこうしているうちにサクラやナルトが来たが、肝心のカカシ先生が来ない。‥そういえば、カカシ先生は遅刻魔だと聞いたことがあった。
「‥先生来ないみたいだから、私、演習場にトラップ仕掛けてくるね」
「えっ!? もう少しで来るかもしれないわ」
「多分まだ来ないよ。それに、少しでも自分たちに有利にしたいから」
「まだ演習の内容も知らないのに焦りすぎよ」
「大丈夫大丈夫」
それに、と、私はサクラに顔を近づけて囁いた。「うちは君と話せるチャンスじゃない?」。その瞬間に火がついたかのように「行ってらっしゃい!」と送り出してくれるサクラはまさに恋する乙女だ。素晴らしいと思う。
これで、カカシ先生が遅刻した時間だけトラップが増えるというわけだ。自業自得。
ざっと30くらいの罠を仕掛けたところで切り上げると、うちは君が私に射るような視線を向けてきた。サクラのアピールが効いたらしい。こんな可愛い子にアピールされたら嬉しがってもいいはずなのに、と思いながらも「ただいま」と言った。
「カカシ先生はまだ?」
「そう! まだ来ないの!」
「へえ‥」
何となく不愉快な気持ちになったが、押さえ込む。私の元上司たちも時間にルーズな人が多かった。エンヴィーは機嫌次第だし、ピトーは私がいてもいなくても変わらなかった。
我慢をするのは好きではないけど、耐えられないほどではない。
「‥名前、元気ないってば?」
「ううん、平気。カカシ先生遅すぎるから疲れちゃった」
「それってば同感ーー!」
心配してくれたうずまき君は、まるで太陽のようだった。エドのような、ゴンのような、底抜けの光。
眩しすぎるこの光から、目を離してはいけない。特に、私のような人間は。
「‥仕掛けたトラップの場所とかみんなにも一応知っておいてほしいから、聞くだけ聞いてね」
目を背けてはいけない。刮目せよ。
――私が間違えないように、目を開け。
20140707
mae tsugi
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