◎ブラックボックス
名字名前は一言で言えば、地味な奴だった。いつもイノと一緒にいて控えめに微笑むばかりで、自ら積極的に誰かと話したりしたことはなかったと思うし、いつも受け身だった。アカデミーの成績は普通で、可もなく不可もなく、といった具合だ。
「第七班、うちはサスケ、春野サクラ、うずまきナルト、そして
――名字名前だ」
サクラとナルトがこの班割りに大声をあげている中、名前はただじっと前を見ていた。その姿がなんだか人間ではないもののように思われて、俺は頭を振る。そんな馬鹿なこと思うなんて、今日の俺はどうかしている。
隣に座っていたシカマルとなにやら話したあと、小さく笑った名前になんだか腹が立った。あいつらは男女の差など飛び越えて仲が良い。
とにかく俺は、強くならなければいけない。ぬるま湯になんか浸っているつもりは毛頭なかった。
▽
大幅に遅刻した上忍から始まった自己紹介は一通り終わり、あとは名前だけとなった。黒曜のような深い黒の目玉が不意にこちらを見つめ、一瞬呼吸が止まる。
「私の名前は名字名前。好きなものや嫌いなものは追々分かると思います。趣味は綺麗なものを集めることで、夢は、幸せに生きることです」
俺は思わず舌打ちをしたくなった。まるで、俺の「復讐」とは正反対だ。しかし、その目はとても真剣で、俺への他意は見受けられない。
まあ、俺の邪魔をしなければ、どうだっていい。
明日行うという演習に燃えていると、サクラから声をかけられたが、そんなくだらない馴れ合いをするなら修行をしていたい。
ふと名前はどうするのかと思って見てみれば、名前は上忍と楽しそうに話をしていた。
「はたけカカシ先生って名前、聞いたことありました! 強いって!」
「いやあ、照れるなァ」
‥いい年した大人がだらしなくでれでれしていて、見るものじゃなかったと後悔する。
「でも、誰から聞いたの? 名前の親御さんは忍ではないんだよね?」
「自分の受け持つ下忍のことは調べていらしたんですね。ええ、私の両親は一般人で、カカシ先生のことは、とある男の人から聞きました」
「誰なの?」
「――うちはイタチ」
その名前を名前が知っていて口にするとは夢にも思っていなかった! どういうことだ!
内心混乱しながらも、二人の会話を聞く。
「里抜けしちゃいましたけどね、残念ながら。何も知らないままお別れすることになってしまって悲しかったです」
「‥何か、あったの?」
「彼は私に色んなことを教えてくれました。‥仲良くしてくれていたと思っていたんですけどね」
「‥そうだったんだね。でも、この里ではもう彼の話題はタブーだ。他の人には言っちゃダメだよ」
「分かっています。けど、はい、お心遣いありがとうございます」
形式的な、心のこもらない感謝の言葉は確かに温度を持っていたが、俺は見ていた。
――黒曜の双眸が冷たく光っていたことを。
20140707
mae tsugi
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