◎異端の不安
「ねえ、一緒にご飯食べない?」
そう話しかけてくれたのは、クラスメートの秋道君だった。秋道君の先には奈良君がしかめっ面をしてこちらを見ていた。不機嫌なのだろうか、私がお邪魔していいのだろうか。
いのちゃんがそんな私の動揺を感じ取ってくれたのか、秋道君たちに話しかける。
「ちょっと、名前は私と食べるんだけど?」
「良いじゃない、一日くらい。僕、名字さんと話してみたかったんだよね」
秋道君の温厚な人柄のおかげか、初対面だが警戒心は薄れていった。いのちゃんも、秋道君たちとは知り合いだったのか、まあいいだろうと許可をしていた。
「ただし、名前に何かしたら‥、どうなるか分かっているんでしょうね?」
「分かってるよ! ね、シカマル?」
「あァ」
短く返事をした奈良君を見て、やはり歓迎されていないのではないかと不安になる。
「名字さん、もしかして嫌だった?」
「えっ」
「暗い顔をしてたから、僕たち無理矢理連れてきたようなものだし‥」
「そんなことないよ、嬉しい」
可愛くない軍人口調を封印した甲斐があった。イタチさんからたくさん教わったんだもの、生かさなきゃいけない。
イタチさんと初めて会ったとき、イタチさんは私の振る舞い全てに目を軽く見開いた。そして悲しそうに微笑んだのだ、その綺麗な目を細めて。
▽
「‥君も、忍なのか?」
急に呼び止められたので、私は歩みを止めた。「如何にも」。振り返り、答えた私の目には光は宿っていなかっただろう。この頃はまだ、自分はまた人から外れてしまうんだろうと信じて止まなかった。
「しかし、自分はまだアカデミー生の身。あなたとは違います」
「‥俺のことを知っているのか」
「はい、天才がいると伺っておりました。名はうちはイタチ。しかし、あなたのその完璧な挙動を見て、それがあなたであると確信したのはたった今であります」
「すごい洞察力だが、その口調はどうにかならないのか‥?」
「どうにか、とは?」
「――俺が教えるよ」
▽
イタチさんは優しい人だったが、厳しい人でもあった。しかし、それは私のためを思ってくれているのが分かったから、嬉しかった。
「名字さん、一緒にご飯食べてくれてありがとうね」
「私こそお邪魔してごめんなさい」
「‥シカマルも、言いたいことあるんじゃない?」
ご飯を食べ終わったあとに、秋道君が奈良君にそう促した。‥なんなんだろう、言いたいことって。もしかして嫌だった、とか? でも、誘ったのは秋道君だから、私に言われてもどうしようもない。
一体何を言われるんだろう、と身構えた矢先、奈良君は口を開いた。
「‥アー、また飯食おうぜ」
少しそっぽを向いて、口を尖らせて、奈良君はそう言った。秋道君がそれをにこにこと見ていることから、それが微笑ましいことなんだろうなあと思うけど、このときの私は「ああ、嫌じゃなかったんだな」と安心するのでいっぱいだった。
20140701
mae tsugi
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