◎鈴木のライバル
たまに、夢を見る。リアリティーがありすぎて、既視感がありすぎて、あまり直視したくない夢だった。夢の中での私は大学生だった。でも、それがただの夢だとは私には思えなかった。身に覚えがあったからだ。その夢の私の行動の全てが私の記憶に残っている。
けれど、だからと言ってどうこう思うわけじゃない。
未練は、驚くほどなかった。
「お、名字」
ここでの生活も悪くないからだろうか。
「野崎くん、おはよう」
私の名前を呼んだのは同じクラスの野崎くんで、わりと話す方だ。漫画を描いているらしく、私もたまに手伝いに行く。最近は佐倉さんという女の子のアシスタントも増えたと言っていたので、そのうち会えたらなあと思っている。
しかし、その瞬間は意外に早く訪れたようだ。
「ちょうどよかった。新しいアシスタントの佐倉だ」
「美術部の佐倉千代ですっ。よろしく!」
「私は風紀委員会の名字名前。よろしくね」
「ちなみに名字は鈴木のライバルのモデルだ」
‥不本意なことにね。
佐倉さんはびっくりしたようで、顔を青くしながらこちらを凝視している。風紀委員会という単語に想像逞しくさせる野崎くんのせいだということを明言させていただきたい。
「あの、マミコを苛める奴らを追い払うような不良でありながらガーデニングが趣味というギャップを兼ね備えた童顔ライバルのモデルが名字さん!?」
「そうみたい。最早ガーデニングが趣味ってことしか合ってないよね」
「えええ、ガーデニングが趣味って、もしかして野崎くんの家のベランダにあるお花ってもしかして名字さんがお世話してるの?」
「私はたまにしか行かないけど、誰かが世話をしてくれてるみたいだよ。もしかして佐倉さんが?」
「いや、大体は」
佐倉さんが何かを言おうとした瞬間にチャイムが鳴ってしまった。慌てて教室を飛び出す佐倉さんを見て、野崎くんは呟いた。
「‥見事に騙されてたな」
「何が?」
「お前の本性」
「別に、騙してないよ」
「腹黒」
「うるさいよ、野崎くん」
20140723
mae tsugi
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