ネタ vol.2013 | ナノ

◎天使が飛んだ

名前は驚くほどの早さで歌舞伎町に受け入れられた。礼儀正しく丁寧で、笑顔こそないものの、そこがクールで素敵ととらえる女性も多くいた。理由はその顔だろう。大きな垂れ目は蒼く、鼻はつんととがっていて、薄い唇は決して歪むことはない。まさに、人形だった。


「重そうな荷物ですね。お手伝いしてもよろしいですか?」


真選組のイメージアップを計るためには町の人の役に立つことが第一だと考えた土方は、名前に「見回り中に困ってそうな人がいたら手伝え」と命令し、それを実行中である。

名前の前には重そうなビニール袋を何個も抱えている女性の姿があった。その女性は名前の姿を見ると、「まあ!」と声を出した。


「いいんですか? 重いのにそんな」

「はい。女性にこんな大荷物は大変でしょう」

「やだ、褒めても何も出ませんよ」


そうこうしているうちに女性の家についたようで、名前は「玄関まで運びます」と申し出た。女性は少し考えたあとに、それを受け入れた。そこは道場で、玄関まで少し歩くからだ。
ドスン、と重い音をたてて荷物を置くと、名前は「では」と言ってさっさと歩いて行き、残された女性――志村妙は「いい人だったわね」と感想を漏らすのだった。







「‥あの、何の用でしょうか」


名前はチンピラに絡まれていた。チンピラ警察24時ではなく、本物のチンピラに。
たしかに、名前の真選組入隊は誰もが目を引かれた。逆に言えば、悪い人間の目も引いてしまったというわけだ。

しかし、こんなことは名前の予想内のことであり、名前は至って普通に対応していた。


「真選組の情報とか流してくれたらお兄さん助かるんだけどな〜」

「‥流さなかったらどうします?」

「痛い目見ることになるかもなァ」


「――昔のえらい人は言いました、」


急に語り出した名前に、チンピラは眉をよせた。


「逃げるが勝ち、です」


そう言うなり脱兎のように駆け出す名前。一瞬怯んだがすぐに追いかけたチンピラは、我が目を疑った。

――建物を駆け上がるように登っていく、だと?


「お兄さんたち、さようなら」


息一つ乱さずに名前は言った。

まるで羽根で飛んでいるような軽やかさだとチンピラは後に語った。



20140322

mae tsugi

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