◎天使が癒した
真選組に名前という名前の美少年が入隊してきたという噂はあっという間に広まった。挨拶を行う前にすでに知れ渡っていたことに土方は驚きながらも、隊士たちの前に名前を連れて立った。
「はじめまして、新入りの名前です。若輩者ではありますが、皆さんのお役に立てるように日々精進していきたいと思うので、どうぞよろしくお願いします」
いつも騒がしい屯所内が静まり返ったと思ったら、どっと沸いた。主な好奇心は名前が男か女か、について向いていた。
名前は髪を肩より少し長く伸ばしていて、中性的な顔立ちをしている。それが性別をわからなくさせたのだろう。
再び騒がしくなった隊士たちを見て頭を押さえると、土方は名前を外へ誘導した。おとなしくついてくる名前はまるで犬のようだ。
「わりぃな、悪い奴らじゃねーが、五月蠅かっただろ」
「あまり慣れていなかっただけなので大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
「‥ま、慣れたら仲良くしてやってくれ」
薄く笑うと土方は名前の頭にぽんと手を置き、しばらくしてから慌てて手を離した。名前の後ろから沖田がにやにやと笑いながら歩いて来るのが見えたからである。
沖田はにやにや笑ったまま、「あれェ〜」とわざとらしくとぼけてみせた。
「土方さん、こういう美少年がお好きなんですかィ?」
「バッ‥!」
「ああ名乗ってませんでしたねィ。俺は沖田総悟。土方はムッツリなんで気をつけてくだせェ」
「そうなんですか? わかりました、気をつけておきますね」
「違うからァァア! 気をつけなくていいからァァア!」
俺のオアシスが総悟に汚されていく‥。
どうしようもない無力さを痛感した土方であった。
満足したのか、沖田が去ったあと、名前は打ちひしがれる土方の元へしゃがみ、無表情ではあるが、「大丈夫ですよ」と言った。
「僕は土方さんに真選組に入れてもらいました。だから、土方さんに従います」
その日、名前は副長補佐に就任した。
20140322
mae tsugi
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