◎きみが消せない
「緑間くん、昨日はありがとうね。これ、心配してくれたお礼にクッキー作ってきたから、よかったらどうぞ」
朝一番、緑間くんを見つけるなりわたしは昨日作ったクッキーを渡してみた。嬉しかったんだもん。
あとで宮地先輩にも渡しに行く所存である。
緑間くんは、わたしとクッキーを交互に見比べて「俺にか?」と言った。いや、普通に緑間くんにあげましたけど…。これで実は宮地先輩にあげまーっす!って言ったらどれだけ性格悪いのよわたし。
そのとき、わたしの後ろから嫌な声が聞こえてきた。
「真ちゃんオハヨー」
「ああ」
高尾くん。嫌いなら関わらなければいいのになんで関わろうとするの。
いや、これは緑間くんをとられたと思っているのかも。
でもなあ、緑間くんと関わらなくなるのはいやだなあ。
うれしかったから。
しあわせだったから。
「真ちゃん、なに持ってるの?」
「見てわからないのか?…言っておくが、やらないのだよ」
「…う、」
高尾くんが不意に顔を反らす。段々と小さくなっていく声量に、わたしと緑間くんは首を傾げた。「うまそう、だな…」そして、二人で顔を見合わせる。
高尾くんがわからないよ。けなしたと思ったら誉めて。このクッキーを誰が作ったか、なんて、勘の鋭い高尾くんなら知ってるはずだから。
「高尾…?」
「うまそうって言ってんの!察してくんない!?」
「え、いや、………は?」
「ぎゃははは真ちゃん間抜け面!…じゃなくて!あー!もう!」
高尾くんがおかしい。1人でノリツッコミなんていう高等技術を披露して、なにがしたいんだろう。
すると、今まで緑間くんと向き合っていた高尾くんがわたしの目の前に進み、わたしと無理矢理目を合わせた。
「昨日はごめん」
「…えっ」
「シュシュ、ちょー可愛かった」
「っ、」
真っ直ぐ目を合わされたままに言われたその言葉は、真剣なんだなって伝わってきて、だからこそ、どうしたらいいかわからなかった。
昨日大嫌いになった高尾くんの存在がよくわからなくなってくる。
「…怒ってる?」
「もう怒ってないよ」
「またあんなこと言ったらどうする?」
「一生許さないかも」
冗談で言ったつもりなのに、あとですぐに嘘だよって言うつもりだったのに、とっても嬉しそうに笑う高尾くんを見たら、もうなにも言えなくなってしまった。
20121006
mae tsugi
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