◎あの子ひとつください
今日は球技大会で、1年生から3年生までどこのクラスも優勝を狙って意気込んでいる。
かくいう俺のクラスも、ムードメーカー(笑)である俺を筆頭に熱く燃え上がっていた。
「優勝したらどっか食いに行こうぜ!」
俺が提案すると、クラスのノリのいい女子が「いいね、高尾くんサイコー」と笑った。
まあみんな断ることはしないと思ったから「でしょっ。みんなどう?」とおちゃらけた風に言うと、次々と賛同の声が上がる。
そんな中どんよりとしている名字を発見して、「俺に嫉妬していてくれたら嬉しいのにな」と思った。
パシりだって、その辺のやつらにやらせればいいし、ぶっちゃけやりたい子もいなくはないだろう。でも、名字が良かった。
ふと意識を外した隙に、真ちゃんが名字に何か差し出していた。よく見ると、それはさくらんぼの柄のかわいらしいシュシュで、俺の中でどろっとした感情が沸き上がる。
「今日の名字のラッキーアイテムなのだよ」
「え、このシュシュ緑間くんの?」
「名字の趣味がわからなかったから、勝手に選んだのだよ…」
本当に嬉しそうに笑う名字にムカついて、無意識に拳を握っていた。
なに喜んでんの。俺だってあれくらいあげられるのに。
「ありがとう、緑間くん」
「別に、どうってことないのだよ…!」
「さっそくつけてもいい?」
「か、構わないのだよ」
髪の毛を一つに結い上げて、名字はうなじを露にする。
「…とと、とても似合っているのだよ…!」
「ねえなんで目を反らしながら言うの緑間くん」
二人の仲睦まじげな様子をもう見ていられなくて、俺は二人に近づいていた。顔には笑顔を貼り付けて。
「そのシュシュ、似合わねー」
苛立ちのままに口を開いたらなんと思ってもいない暴言が出て、俺の言葉で名字が涙ぐんだのがわかった。
「………」
「そんなことないのだよ!」
真ちゃんが慰めているみたいだけど、効果はない。
やりすぎたかも、と心の端で思った。
「似合わないのくらい知ってる」
目に涙をためて睨みつけるように俺を見るその目は、まっすぐ俺の心を抉るようで。
「高尾くん、嫌い」
「………知ってる」
天罰が下されたのか、と、他人事のように考えた。
20120910
mae tsugi
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