◎ぬくもりは迷子
今日は球技大会で、1年生から3年生までどこのクラスも優勝を狙って意気込んでいる。
かくいうわたしのクラスも、ムードメーカー(仮)である高尾くんを筆頭に熱く燃え上がっていた。
「優勝したらどっか食いに行こうぜ!」
「いいね、高尾くんサイコー」
「でしょっ。みんなどう?」
高尾くんはいつもクラスの中心で、女の子からもこうして慕われている。
…なんでわたしなんだろう。パシりをやってくれそうな女の子ならたくさんいそうなのに。
朝からどんよりとした気分に包まれていると、斜め前から緑間くんが何かを差し出してくれた。
「今日の名字のラッキーアイテムなのだよ」
「え、このシュシュ緑間くんの?」
「名字の趣味がわからなかったから、勝手に選んだのだよ…っ」
わたしのために買ってきてくれたんだ、と思うとなんだか嬉しくなった。男の子がシュシュを買うのって恥ずかしいだろうから、尚更。緑間くんがこのシュシュを選んでいる姿を想像したら笑みが溢れた。
「ありがとう、緑間くん」
「別に、どうってことないのだよ…!」
「さっそくつけてもいい?」
「か、構わないのだよ」
白地にさくらんぼがプリントされたシュシュはとてもかわいい。
ただ、問題はわたしに似合うかどうかだ。
「…とと、とても似合っているのだよ…!」
「ねえなんで目を反らしながら言うの緑間くん」
厚意か悪意かわかんないよ。
シュシュをとるのも悪い気がしてどうしようかと悩んでいたら、高尾くんがやってきて、わたしを見て笑う。
「そのシュシュどうしたの?マジ似合わねー」
「………」
「そんなことないのだよ!」
緑間くんは否定してくれたが、似合わないのは恐らく事実なのだろう。不意討ちのショックで泣きそうになったが、根性で目を見開き涙を留める。
「似合わないのくらい知ってる」
だけど、馬鹿にしたように笑いながら言ってほしくはなかったなあ。
バスケしている姿を見て尊敬したのに。見直したのに。
なんなの。
「高尾くん、嫌い」
「………知ってる」
20120910
mae tsugi
戻る