ネタ vol.2013 | ナノ

◎私は恋するマーメイド

「あー、なんか喉渇いたわー」
「ハイッ!只今買って参ります!」


先日、見事に高尾くんに弱味を握られて彼のパシりとなったわたしですが、猛烈に視線を感じる。高尾くんの前の席から。

そろ〜っと覗き見をすると、バッチリ目が合った。
言いたいことがあるならちゃんと言ってほしいよ、緑間くん…。


「ちょう喉渇いたー」
「ヒィッ!」


催促されたよ!ちくしょう!

結局緑間くんの視線の理由はわからないままわたしは購買へとダッシュした。もしかしたらわたしの自意識過剰だったのかもしれない。だとしたら、緑間くんには悪いことをしたなあ。


「あ、なに買ってくるか聞くの忘れた」


アホすぎる自分に涙が出そうになる。
無難にスポドリでいいや。

お金を入れてボタンを押そうとしたら、誰かにぶつかられて違うボタンを押してしまった。
お、おしるこって…!むしろ飲む人いるのかな、これ。


「わ、悪い…。金出すから違うの買ってくれ」


あれ?この声。


「宮、地…先輩……?」
「あ、おう。そうだけど…」
「っ、いつもバスケ頑張ってて…尊敬してます…!お金はわたしが出すのでお構い無く!」
「や、でも俺がぶつかったんだしよ…」


宮地先輩ちょう謙虚!惚れる!

内心ハアハアしながらも、ここは絶対に先輩に払わせまいと意地を通す。だって、先輩に払わせるなんて申し訳無さすぎる!
いつの間にか購買はわたしと先輩の一騎討ちみたいな雰囲気になっているが、わたしは先輩にお金を払わせるわけにはいかないのだ。


「じゃあこうしましょう。わたしがお金を払って、宮地先輩がわたしの名前を覚える!どうでしょうか!」
「いやおかしいだろ!」
「びっくりするくらい鋭いツッコミありがとうございます!」
「…まあ、それでいいなら。で、名前は?」
「!名字名前ですっ」
「名字な、覚えた。一年だよな?」


にっこりと笑みを浮かべる先輩にわたしの心はノックアウトされた。反則だ!


「はいっ!また会ったらよろしくお願いします」
「おう、名字みたいな素直な後輩が出来て嬉しいぜ」
「ありがとうございます!わたしも、宮地先輩みたいな素晴らしい先輩と出会えて幸せです!」
「なっ…、お世辞も大概にしとけ!パイナップル投げんぞ」


パイナップル?宮地先輩もジョークなんて言うのか、素敵!

ふと隣を見ると、宮地先輩をストー…陰ながら応援しているときに見たことのある先輩が苦笑していた。確か名前は。


「木村先輩、ですね!名字名前です、よろしくお願いします」
「おう、よろしくな。一年なのに宮地の良さがわかるなんて、見る目あるな。バスケ部の奴らにも教えてやりたいくらいだぜ」
「悪ノリやめろ。軽トラで轢くぞ」


なにやら物騒なやり取りをしているのを眺めていたら、ふと自分の使命――パシりを思い出した。


「わたし、そろそろ教室に戻らないと!先輩方、お話してくださってありがとうございました!部活頑張ってください!」


わたしはスポドリを買い直すと、おしることそれを持って、教室へダッシュした。
宮地先輩とお近づきになれたからか、足取りが軽やかだ。

今なら飛べる!気がする!


「アイキャンフライ!」
「なにやってんの」


…………見られてた、だと!
恥ずかしいものすごく恥ずかしい。誰もいないからって階段を3段飛ばしで駆けながら叫ばなければ良かった。


「遅いから見にきた。ていうか、飲み物買いに行くのに時間かかりすぎ」
「だって、ねえ、聞いてよ!宮地先輩とお話痛い痛い痛い高尾くん頭つぶれちゃう!スポドリ買ってきたから!ついでにおしるこも!」


高尾くんの機嫌の悪さがわたしの頭に直接響いてきてるよ!
声がいつもより低いのが色っぽくて、そこもギャップとして女子に騒がれる理由なんだろうな、と、他人事のように考えた。他人事だけど。


「なに、真ちゃんにも買ってきたの?真ちゃんのこと好きなの?」
「真ちゃんってだれ。間違って買っちゃったんだよ」
「はは、馬鹿だな」
「馬鹿って言った方が馬鹿なんですー」
「子供かよ」


高尾くんの機嫌はいつの間にかなおっていた。面倒な人だ。

ちなみに、緑間くんの好物はおしるこらしい。



20120902


mae tsugi

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