◎ストロベリィ戦争
一生懸命バスケをやるその真剣な顔に、わたしは一目で恋に落ちました。
放課後に一人でも黙々とストイックに練習をする彼――宮地先輩は、どうやら今はバスケ一筋で彼女をつくる気はないらしい。そこがまた格好よくて、また一つ好きになる。それはわたしには出来ないことだから。
ピアノに習字にバレエにテニス。一通りかじったものの、どれも情熱を注ぐほどには好きになれなかったのだ。たぶんわたしは飽き性なんだと思う。
本当に、宮地先輩は格好いい。
しばらく体育館の扉の隙間から覗いていたら足音が聞こえてきたのでわたしは慌ててそこから逃げようとしたが、何故か首根っこを猫のように掴まれてしまった。誰だ、この不届き者は。
ムッとして後ろを振り返ると、同じクラスの高尾くんがニコニコして立っていた。
なんだ、高尾くんか。
クラスでの高尾くんのイメージは、気が良くてみんなのムードメーカー。悪い印象はなかった。
「こんなとこで何してんの?」
「えっ、えっと…」
「ああ、バスケ部のファン?」
なにかが違う。
頭の中に警報が鳴り響いた頃にはもう遅かった。
体育館を覗きこみ、中にいる人物を確認する高尾くん。
「宮地先輩のこと好きなんだ?」
「………ッ!」
意地の悪そうな顔をしてわたしに詰め寄るこの人は、だれ?
「宮地先輩に言ってあげよっか?」
「や、やめて…っ」
人を見下すように口元を歪めた高尾くんに懇願すると、くくく、とお腹を抑えて笑われた。
なんなの、こいつ…!
「人に頼み事をするときはどうするんだっけ?」
「うっ…」
「お願いします、でしょ?」
「言わないでください…。お願い…しま、す」
「よくできました」
語尾にハートマークでもつけそうな勢いで高尾くんは言う。
違和感が気持ち悪い。
「――じゃ、俺のパシりやってくれたら言わないであげる」
クラスでの高尾くんのイメージは、気が良くてみんなのムードメーカー。
全然そんなことなかった。
20120901
mae tsugi
戻る