◎無音に溺れる
「自分、青峰のこと好きやないやろ」
「………?」
「無自覚かいな」
やれやれ、と言った風に肩をすくめる先輩。
なんだろう。わたし、青峰くんのこと、ちゃんと好きなつもりではあるのに。
でも、わたしと青峰くんは恋人というにはあまりにも"なにもない"。
多分、今すぐ別れてと言われたらなんの躊躇いもなく別れられる。
「自分はそのままでいいと思ってるかもしれんけど、そのままだと傷つくのは自分だけじゃないで」
「…言っていることがよくわからないのですが」
わたしが傷つく?傷つくことを恐れて自らなにもかもを切り捨てたわたしが?
――ありえない。
抗議の意も込めて先輩を睨みつけると、先輩は悪びれもせずにへらっと笑った。
ていうか、ちゃんと苦手って言ったのに関わってくるなんて、先輩はMという人種なのだろうか。………ないな。
「青峰のこと、ちゃんと考えてくれる気があるなら」
先輩の細い目がわたしを捉える。まるで蛇に睨まれた蛙にでもなったような気分だ。
「もっと執着してもいいと思うんやけど、ねえ」
「見苦しい執着は、したくありません」
「そーかい」
一貫して飄々とした態度をとる先輩を、わたしは少しだけ見くびっていたようだ。
総て見透かされていた。
誰にも執着しないことはわたしのプライドのようなものだ。
自分が悲しくならないように、自分が惨めにならないように。
「青峰は、部活出えへんしどこでもグラビア普通に読むし他人の弁当勝手に食うし先輩を尊敬せえへんけど、」
「………」
先輩は青峰くんのこと嫌いなんじゃないかと思うほど目が真剣だった。が。
「――確かに信頼するに値する人間や」
その眼には揺らぎない信頼が映っていた。
20120831
mae tsugi
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