◎耳元にただよう青
「アイツになにもされなかったか?」
「先輩?うん、大丈夫だよ。ちゃんと先輩のこと苦手って言っておいたし」
「………はあ」
なんでため息吐かれなきゃいけないの。
わたしの肩に顔を埋めたまま青峰くんが動かないので、仕方ないと頭を撫でてやる。
青峰くんの髪の毛は意外とさらさらだけど、嫌いじゃない。
「青峰くん、バスケうまくてびっくりしたよ」
「惚れたか?」
「どうだろう」
「んだよ」
残念そうに口を尖らせる青峰くんだったが、なぜそんなことを言うのだろう。代替品であるこのわたしに。
だが、疑問は口に出されることなく腹の中へと押し込めた。
「…あー、くそ」
わたしにくっついたまま青峰くんがベッドに倒れこむので、わたしまで巻き添えを食らってしまった。
青峰くんがわたしに覆い被さったような形なので、青峰くんの体温がどんどん伝わってくる。
温かくて心地よい温度に、わたしはゆっくりと目を閉じた。
「…ヤっていいの?」
「いいよ。やり方わかるなら」
わたしに青峰くんを拒否する気はないし、それは誰に対してもそうだ。たまたま青峰くんがわたしを必要としたから応えただけ。
それでも、誰でも良かったとしても、必要とされることは嬉しい。
「じゃあキスでいい」
「うん。青峰くんにはまだ早い」
そういうことは好きな人にした方がいいよ。
寸前に飲み込んだ言葉がわたしの中で反芻される。
わかってる、わたしは遊び。
そこに愛なんてあるはずがない。
「好きだ、名前」
青峰くんが優しいだけ。
20120830
mae tsugi
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